「ドニヤの"Thank you."」フォーチュンクッキー talismanさんの映画レビュー(感想・評価)
ドニヤの"Thank you."
映画に備えてたっぷり眠ったのに、ドニヤが必要とする睡眠薬を自分が服用したかのように、真ん中あたりの大事な箇所で寝入ってしまった。多分もっと大事な所では目が覚めていたと思いたい。
相手をまっすぐ見て、無表情で寡黙で動じないドニヤは清々しい。必要最低限のことを述べ、余計なことを聞かれたら無視するか、なぜそのようなことを言うのか質す。ドニヤはぐっすり眠れない。睡眠薬を処方してもらうために赴いた医師は、ジャック・ロンドンの『白い牙』の話をする。次のセッションでは本を手にその小説の一部の朗読までする。ビックリした。ずっと離れていた母親との再会シーンを読み終えたところで、医師はドニヤに見られないようデスクの上に置いた鞄で顔を隠して何度も何度も鼻をかむ。あれは泣いてたんだ。最初は横柄だった医師は、顔つきや服装が良くなりドニヤに丁寧に対応するようになった。
犬と狼の血が混じった存在が、犬から疎まれ仲間に入れてもらえなかった「白い牙」にドニヤは共感する。アフガニスタンの米軍基地で通訳として働いていたドニヤは、「女である」為に他の通訳達の輪に入れてもらえなかった、とドニヤは言う。
ドニヤは思いがけず自動車整備士のダニエルに出会う。彼はドニヤの英語がFremont訛りでないと言った。この映画の原題はFREMONTだ。アフガニスタンの人達が集まって住んでいる所でもあるんだろう。でも彼はアフガニスタンの人に今まで会った事がないと言っていた。
自分一人故郷から離れ、アフガニスタンでは殺されている同胞がたくさんいる。自分も眠れない。大学を出て英語通訳として働いていたドニヤが今、アメリカで携わっているのは単純作業。笑ったり泣いたり、恋をして幸せになることも後ろめたい。でもドニヤ、工場の雇い主の妻がケチでよかった。自分の勘と勇気が、話相手を求めているダニエルのもとへ足を運ばせてくれた。訳わからない「鹿」を、彼は欲しかったと言ってくれた。ドニヤの丁寧で美しく響く"Thank you"が、幸運をゆっくり引き寄せた。
新宿シネマカリテで見た
監督はイラン生まれなんですね。どうりで、私の一番好きなイランの監督であるアッバス・キアロスタミ調の作品に仕上がってると思いましたよ。彼の作品のほとんどが前半眠くなってしまいますが。
またのレビューを楽しみにしています。では。
ドニヤの丁寧で美しく響く"Thank you"が、幸運をゆっくり引き寄せた。』この最後の言葉がいいですね。文化によってはありがとうという言葉が存在しない文化がありますが、彼女の育った文化もそうだったのかなと思ったぐらいありがとうを使っていませんでしたし、使う時、間を開けてありがとうというんですよ。この言葉に慣れていないんだなあと思わせましたよ。だから、ドニヤの丁寧で美しく響く"Thank you"が、幸運をゆっくり引き寄せた。』がこの映画にピッタリ響きますね。いいコメントです。ありがとうございます。