劇場公開日 2025年6月13日

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「【”アルメニア人のアララト山の絆。そして怒りに呑まれるな!”今作は無実の罪でソ連の獄に入れられた男が格子から見えたアルメニア人元画家で現看守と交流し、自由を勝ち取る様を描いたヒューマンドラマである。】」アメリカッチ コウノトリと幸せな食卓 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 【”アルメニア人のアララト山の絆。そして怒りに呑まれるな!”今作は無実の罪でソ連の獄に入れられた男が格子から見えたアルメニア人元画家で現看守と交流し、自由を勝ち取る様を描いたヒューマンドラマである。】

2025年11月27日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

幸せ

■1915年。オスマン帝国によるアルメニアジェノサイドで祖母を失った幼きチャーリー。祖母は銃殺される前に”笑顔を忘れないで。”と彼に言葉を遺す。その後、幾星霜。
 ソ連統治下の祖国・アルメニアに帰還したチャーリー(マイケル・グールジャン)は、刑務所長ジャン(ジャン=ピエール・ンシャニアン)とその妻ソナ(ネリ・ウヴァロワ)の息子を事故から防ぐが、ジャンによりスパイ容疑で逮捕されてしまう。
 だが、めげずにチャーリーは牢獄の小窓から隣のアパートに住む夫婦を観察するのが日課となる。彼らが生活する姿を見て楽しんでいたが、或る日夫婦は喧嘩別れをしてしまう。チャーリーは男が刑務所の監視役である事を洗濯物から知り、夫婦仲を戻そうと奮闘するのである。

◆感想<Caution!内容に触れています。>

・ストーリー構成、演出とも秀でた作品である。何よりも刑務所内のチャーリーを始めとしたアルメニア人囚人たちが、アルメニア文化を誇っているのが良いのである。

■ご存じの通り、アルメニア人は長年虐げられてきた人種である。今作の冒頭で描かれるオスマン帝国によるアルメニアジェノサイドなどである。
 故に、チャーリーの様に世界各国でアルメニア人は暮らしている。旧ソ連崩壊によりアルメニア共和国が出来てからもその状況には変わらない。今作の監督・脚本・主演のハリウッドのベテラン俳優であるマイケル・グールジャンもその一人である。
 だが、彼らはアルメニア文化を忘れない。今作はその思いに満ちた作品でもあるのである。

・アルメニア文化と言えば、アルメニアの民族の象徴とも言われるアララト山がその代表格であろう。ノアの箱舟が流れ着いたとされる山である。
 今作ではそのアララト山が重要なモチーフになっている。看守の男(後半に明らかになるが、高名な画家であったアルメニア人のティグラン(ホヴィク・ケウチケリアン)。彼は教会を描いた事で、画家を止めさせられ刑務所の看守になっており、画家の夢を断ち切れなったために妻と口論になっていたのである。)の家での宴会を見ていたチャーリーが自分もアルメニア人と伝える為にタバコと引き換えに描いて渡したアララト山や、ラストのシーンでも効果的に使われているのである。

■今作の演出で上手いのは、ティグラン夫婦の会話が字幕でも出ない所である。観る側は夫婦の会話や、仕草や室内の状況で夫婦関係の状況を推測するのであるが、これが良いのだな。

・今作では、チャーリーは無実の罪で獄に繋がれても決して諦めない。彼はティグラン夫婦の家を観るために独房を快適なカラクリに満ちた部屋に変え、ベッドを椅子にしてティグラン夫婦の家を眺めながら食事を摂るシーンなどとても良いのである。

・そして、彼の想いが通じてティグランは出て行ってしまった妻を迎える為に、酒も止め部屋も綺麗にするのである。そこに漸く戻って来た妻(ナリーヌ・グリゴリアン)。
 そして、ティグランはお礼にバターを差し入れしたりするのである。壁が有っても二人の友情は成り立ったのである。
ー このシーンで、チャーリーがティグラン家のパーティに参加している夢想シーンも良いのだな。-

・だが、或る日、チャーリーたちはシベリア送りを命じられる。だが、偶々刑務所に訪ねて来たソナは、チャーリーが獄の中にいる所を見てしまい、夫である刑務所長に激しく詰め寄るのである。
 そして、チャーリーは意地の悪い看守によりティグランにボンチク(ベルトで鞭うたれる事。)をされながらも刑務所から釈放されるのである。

・彼が自由の身になって行った場所は、長年観て来たティグラン夫婦が住んでいたアパートなのである。そして、そこの棚に挟まれていた布に見事に描かれていたのは、アララト山だったのである。
 そして、チャーリーは老いるまでその部屋で、楽しく仲間達と宴会などをして暮らすのである。

<今作は無実の罪でソ連の獄に入れられた男が格子から見えたアルメニア人看守と交流し、自由を勝ち取る様を描いたハートフルなヒューマンドラマなのである。>

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