「アルメニアと北朝鮮」アメリカッチ コウノトリと幸せな食卓 La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)
アルメニアと北朝鮮
第一次世界大戦時にトルコがアルメニア人を100万人単位で虐殺していたと言うとんでもない歴史的事実を知ったのは映画「消えた声が、その名を呼ぶ」(2015)を観た時でした。ナチによるユダヤ人虐殺と同様のホロコーストがあった事をジイサンになるまで知りもしなかったのです。学ぶべき歴史はまだまだ沢山。
さて本作は、そのホロコーストを逃れてアメリカに移住していた男が、ソ連治世下で落ち着いた社会になったと思われた祖国に戻ったところ、いきなりスパイ容疑で逮捕され監獄に放り込まれるというお話です。しかし、物語は決して暗くはならず、監獄の窓から見える近所のアパートに暮らす夫婦を静かに励まし続けるという予想外の展開を見せます。男が置かれた状況は不条理で厳しいのに、夫婦を見守る眼差しは妙に可笑しく、心温まります。観る者は自分の心を一体どこに置けばよいのか戸惑ってしまうのでした。これは上手い造りだなぁ。
ところが、更に引いた視線で見ると、彼の境遇が全く別の歴史的事項に重なって見えます。それが、「地上の楽園」の宣伝文句に夢を託した在日コリアンの人々が北朝鮮に帰った途端に厳しい現実に晒されたという「帰国事業」です。僕の身の回りでこの事業に加わった人は居ませんが、日本人としてはかなり身近な問題に感じます。それだけに、本作の舞台が北朝鮮であったなら「悲惨な現実をこんなにホッコリ物語に描いてしまっていいのかな」と感じていたのではないでしょうか。それは考え過ぎなのかな。
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