劇場公開日 2025年6月13日

「お国柄、お人柄」アメリカッチ コウノトリと幸せな食卓 TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5お国柄、お人柄

2025年6月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

幼い頃、トルコからのジェノサイドを逃れて一人「ある特殊な方法」でアルメニアを離れ、遠くアメリカへ渡ったチャーリー(マイケル・グールジャン)。その後、ソ連の統治下となったアルメニア・ソビエト社会主義共和国が「離散したアルメニア人を呼び戻す」ために打ち出した政策に乗じ、微かに記憶に残るメロディーの一節を頼りに、故郷を求めてアルメニアを訪れます。ところが、度重なる意思疎通の齟齬によって「すれ違いコント」さながらにおかしな展開から収監されてしまうチャーリーは、突然に発生した天災がきっかけで起こる「奇跡」によって、自分の牢の窓から見える「向かいの部屋の様子」に気づいて興味を持ち始めます。
言葉や立場などが障壁となってもどかしい状況が重なり、時に死んでしまいたくなることもありますが、その都度、小さな希望を見出しては這い上がろうとするチャーリー。そもそも、自分の祖国でありながらも殆ど記憶や知識がないため、この土地での慣習や振舞い方すらわからない彼は、窓の外に見える「世界」からヒントを得ることで祖国を知り、そして自分の故郷をイメージして思いを馳せます。
一方、作品中の殆どの時間をチャーリーと向き合う役人たちが、「良い意味」でステレオタイプなキャラクターが揃っていて、地味になりがちなシチュエーションを見事に展開させていく役割を担っています。むっつりして如何にも俗物といった感じも、モスクワと妻には頭が上がらず立場の堅持に必死な高官。日和見で処世術に長け、即断即決することでリスクを取らない所長。モスクワ色強くて融通が利かず、目付け役でありながら隙さえあれば虎視眈々と出世も狙っているであろう副所長。そして、最初こそチャーリーに意地悪な仕打ちもするが、どこか牧歌的でまた人情にも厚い属吏達など、モスクワとの距離感も判るような「地方」だからこその世界観と、厳しい歴史が続いたお国柄、お人柄が見えて味わい深く映ります。或いは、彼らと関わりの強い「女性陣」がいずれも(この時代にあって)男勝りで主張が強く、影響力があるからこそ、惑いがちな男達の箍(たが)となって支えているようにも感じます。
決して劇的な感動はありませんが、しみじみ感じ入るような作品性と、グッと掴む「決定的な瞬間」に思わず涙腺を刺激され、チャーリーに引っ張られるようにアルメニアへの興味も沸いてきます。ラスト、これで終わりかと思うシーンからもう一つ、少し先の「未来」が描かれます。早まって席を立たれませんように。良作でした。

TWDera
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