劇場公開日 2025年6月28日

「選挙と、自転車(東京自転車節、その後)」選挙と鬱 cmaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0選挙と、自転車(東京自転車節、その後)

2025年7月20日
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鑑賞方法:映画館

 選挙を題材にしたドキュメンタリーを知ると、なぜか素通りできない。多少の無理をしてでも、駆けつたくなる。それは多分、ふたつの理由がある。まずは、自分の一票がどのように政治に繋がっていくのか、知りたいから。そして、何かと大変そうな選挙にあえて立候補し、まず褒めらない、むしろ貶されるばかりの政治家になろうとする人の気持ちを、少しでも知りたいと思うからだ。(深夜の郵便局で必死に切手貼りをする姿(「選挙2」)や、供託金300万円没収覚悟で選挙に挑む姿(「立候補」)が、今も忘れられない。)今回もまた、少々半端な上映時間に、無事滑り込めて安堵した。
 本作の監督は、「東京自転車節」の青柳拓監督。前作は、コロナ禍で需要が増したウーバーイーツで働き始めた監督のセルフドキュメンタリーだ。肩の力が抜けた語り口で、笑いを誘うエピソードを織り交ぜながらも、奨学金の重い負担や、コロナ禍の出口が見えない閉塞感が全編を覆う。笑ってしまうが故に、暗い気持ちにもなった。あれから4年。あの青柳監督が、新作を撮った!ということが、素直にうれしかった。
 思いがけない誘いを受け、新たな世界に踏み入れた立候補者・水道橋博士と、ドキュメンタリー担当者・青柳監督。手探りの中で、一ヶ月余の選挙戦に挑む。ドラクエっぽい、電子音の音楽と、ぎざぎざフォントの字幕による描写が小気味よい。奮闘する2人のユーモアと、ふと見せる孤独が、どこか共鳴していて、観る者を惹きつける。選挙アドバイザーの敏腕ぶりや、地元での反応の薄さ、ニコ動での匿名の言葉の暴力等、もやもやする引っ掛かりを、素直に表出できるのは、青柳監督の強みかもしれないと感じた。
 政治的信条はさておき、ドキュメンタリーであっても、主役には活躍してほしいし、成長と成功を期待したくなる。強大な後ろ盾はなくても、アイデアを出し合い、手応えを積み重ねていく博士チーム。空振りや失敗にひやひやしても、笑いと挑戦は忘れない。そして、彼らがいよいよ迎えた運命の日…。
 予告からもタイトルからも、晴れやかな初登院がゴールではないことは、分かっていた。けれども、一ヶ月の頑張りを目の当たりにしてきたからこそ、「ここで終わってもいい、このまま席を立ってしまいたい」という気持ちにもなった。そんな気の迷いを起こさせるには十分過ぎる「中締め」。ためらっているうち、避けようのない第2部が始まった。
 主役が不在となってしまう都合上、情報も尺も限りがある。「と」で繋いでいるけれど、2部というよりエピローグなのでは、と初めこそ感じた。ところが、どうしてどうして。長い空白期間を経て、ようやく姿を現した博士が、自転車に乗り始めたとたん、一気に画面が色付いたのだ。
 つくづく、自転車は不思議な乗り物だと思う。爽快で小回りが効くけれど、雨が降ればずぶ濡れになるし、階段では引いて歩くしかない。けれども、ウーバーイーツに勤しむ2人は、生き生きとしていた。そしてたどり着く、至福のラスト。この数分間こそが、本作の真髄だとしみじみ感じた。誰かと一緒に走らせれば苦労が半減する、それも自転車の魅力なのかもしれない。本作は、選挙映画であり、燦然と輝く自転車映画でもある。

cma