「戦争はいけないと一般論に落とし込んでしまうこと、被害者側の声だけを拾うことのむなしさを感じた。」満天の星 あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
戦争はいけないと一般論に落とし込んでしまうこと、被害者側の声だけを拾うことのむなしさを感じた。
来週公開される「雪風YUKIKAZE」と、本作では同じ言葉が使われている。それは「子どもたちの未来」である。本作では「子どもたちの未来のために対馬丸の記憶を継承しなければならない」、雪風ではおそらく(未見なので)「子どもたちの未来のために80年前に戦ってくれた軍人たちの功績を留めていかなくてはならない」
どちらも一般論に落ち込む陥穽に引っかかっているように見受けた。
本作は、監督であり出演者である寿大聡が、亡くなった祖父の衣鉢を継ぐべく、試行錯誤、苦心惨憺し続ける話である。祖父の中島髙男氏は対馬丸の数少ない乗員の生存者で長く対馬丸事件の語り部を務めた人。寿大は、後を追うように関係者から話を聞き、現場にも足を運び、遂にはお祖父さんの気持ちが分かるようにと、ビデオで見たお祖父さんに似せるメイクをして、同じ格好をして、同じ語りをするところまで自らを追い詰めて行く。その気持ちは汲むべきものであるのだが、戦争はいけない、という基本原理、一般論だけに囚われているなという印象は受ける。ウクライナにわざわざ行っているところがその感じをより強くした。
対馬丸事件はまだ明らかになっていない部分が多い。潜水艦がなぜ対馬丸を攻撃したのかアメリカ側の証言は得られていない。日本側においても初期の救難活動がなかったことについても客観的な事実関係は確認できていないし、軍から遭難者家族への連絡や事後処理、軍内部における当事件の位置づけなど、検証はまったく不十分である。対馬丸事件があまり知られていないのは、その特殊性が掘り起こされておらず、戦時の不幸な遭難事故の一つとしか認識されていないところが多い。
だから、せっかく、このような映画をつくったのだから、被害者側の話だけでなく、問題点を整理し、何を検証すべきか、どこを掘り起こすべきか、自分ではできないとしても、後世の研究者がやるべきことを提示すべきだった。
本作はドキュメンタリーであると思う。であれば子どもたちがかわいそうとエモーショナルな方向に流れるだけではフィクションと何ら変わらない。「雪風」が醸し出す(と思われる)ヒロイズムみたいなものとあまり変わらないのである。
コメント、共感ありがとうございます。おっしゃる通り箝口令が敷かれた経緯と生存者達が口を開くことになったきっかけを掘りさげて欲しかったです。後半の取材旅行よりも…