キムズビデオのレビュー・感想・評価
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創作入り混じり
他人事ではない
大量のビデオカセット(β、VHS)、レーザーディスク、DVD、HD-DVD、Blu-rayを保有し、ハイビジョンLDとHD-DVD以外は、まだ再生可能という環境を持つ立場とすると、他人ごとではない映画です。
テレビの映画番組を録画したテープの中には、例えば渡辺徹・大場久美子吹き替えの「スターウォーズ」や、レーザーディスクだと、MGMのライオンが出てくる「ニュー・シネマパラダイス」、ヒッチコック本人が自身の特徴ある演出について語るテレビ番組等、やはり現状ではBlu-rayも配信もないものが多数あります。ボチボチ個人的にデータ化はしていますが、何かのキッカケでデータが消えてしまったら、ということも考えてしまいます。
映画は元々映画館で見終わった後、それをコレクションするなんていうものではなかったのに、ビデオカセットやレーザーディスクによって、物理的に保有することができるようになったのが、私のような、またこの映画の監督のような、不幸な人を生み出してしまったのでしょう。
この映画は、フィクションなのか、ノンフィクションなのかと混乱するところがありますが、それは正直に全部見せたら、あまりにも真面目過ぎてつまらないからのようです。見せても面白くない部分は割愛して、面白い部分だけを面白く見せてくれているらしいです。
情報量が多いし、変なところも多いので、1回だけでは把握しづらい感じのためか、映画館では映画本編のVHSが本数限定で売っています。まだ再生できる人は、買って家で見直すのがいいかも知れません。私は買いました。
我が家のコレクションも、キムズビデオ向きのものが多いのではないかと思います。キムズビデオで引き取ってもらえないでしょうかね?
【”ドキュメンタリー”『キムズビデオ』、最高に楽しめた】
1980年代後半から2000年初頭までニューヨークでカルト的な人気を博していたビデオレンタル店”キムズビデオ”があったそうな。
ゴダールから無名監督の作品まで、あるいはアート系からポルノまで、世界中から5万本以上のインディーズな作品ばかりを集めた一大コレクション。しかもかなりの数の海賊版が含まれ、FBIが家宅捜査に入って押収したこともあるという。
経営者は、朝鮮戦争後に渡米・移民した韓国系のキム・ヨンマン。露天の野菜行商からスタートしてクリーニング店経営を軌道に乗せ、やがてその店内で怪しいビデオレンタル商売を始めた。
しかしご想像の通り、ネット配信の普及とともにテープやDVDと言った物理メディアのレンタル市場は急速にシュリンクし、キムズビデオは閉業を余儀なくされ、キムはその膨大なコレクションを一括して引き取って管理してくれる主体を公募する…。
後年、かつてのレンタル会員で今や映画監督となったデヴィッドは、一時は連絡が取れなかったキムを苦労して見つけ出し、コレクションの行方を突き止めた。
名乗りを上げたのは、イタリアはシチリア島の小さな村サレーミだった。文化保護に熱心な市長(厳密には村長だろうが「市長」と訳されていた)が村興しのために受け入れを表明、コレクションを収蔵する資料館を作る企画だ。開館の暁には、かつてのキムズビデオ会員が訪れれば無料貸し出しを保証し、選定した作品をパブリックビューイングで楽しめる映画祭を開催するというオファーだったのだ。
そしてデヴィッドはサレーミへ旅立ち、”ビデオ資料館”を訪れてみたが・・・。
コレクションは10年以上も劣悪な保管状態で放置され、訪れる人もなく、もちろん映画祭など開かれてもいない。万事、当時の市長が政界返り咲きのために話題性のあるネタとして利用しただけであり、しかもマフィアと繋がりが噂される有力者に管理を任せて村の予算を流し込んでいるらしい、ということが見えてきた。
デヴィッドはその前市長、現市長、有力者、マフィア撲滅委員会などに突撃取材を何度も試みるが、市長からははぐらかされ、やんわりと脅迫紛いのことまでされる。
悲憤慷慨したデヴィッドは、ついに仲間とともにサレーミ村の仮装カーニバルの夜に資料館のコレクションを奪還するという暴挙を決意する。
「資料館を舞台にした映画撮影」との名目で市長から許可を取り、ヒッチコックやチャプリン、ゴダールなどの仮面をつけて顔バレしないようにして保管庫を破り、トラック1台に詰めるだけ詰め込んで、夜陰に乗じて密かにコレクションをニューヨークに送り出してしまった。
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・・・とここまで観て、その映画マニアたちの痛快な暴挙を大いに楽しみながら、よくぞこれで本当にマフィアに消されなかったな、と思いつつ、途中から「・・・ん?・・・おかしいぞ」と思い始めた。
最初の訪問でシチリア方言しかわからない村民とのコミュニケーションに苦労しながら探していくあたり、手持ちカメラの映像も含めて真に迫っていてすべてがドキュメンタリー”タッチ”だが、「コレクションを奪った翌朝の空っぽになった保管庫」の光景が映るのを奇異に思う。
なんで? 夜のうちに運び出して逃げたはずでは? のんびり朝の保管庫を撮影している場合ではないでしょう・・・?
これ、帰宅後に調べてみると、キム・ヨンマンもキムズビデオもサレーミ村も実在し、市長が受け入れを表明したがサレーミではないどこか(誰か)が引き取ったことまでは事実らしい。
が、結局コレクションの存在は未だに不明。
もちろん、サレーミに乗り込んでビデオを奪還する話はフィクションで、前市長、現市長、マフィア疑いの有力者もフィクション。
村の闇を暴こうとして消された?マフィア撲滅委員会長の件もフィクション。
あー危うく騙されるところだった(笑)。
しかし、実に楽しいウソだった。
それだけドキュメンタリー”タッチ”の作り方が上手い。映像技術や演出という意味でもあるけれど、ギリギリ「ありそうでもあり、なさそうでもある」ウソを巧妙に組み立てているところが二重に「映画的な虚構」があっておもしろい。
同時に、制作者たちの映画への偏愛が溢れ出ている。
思えば、こうして「映画への愛を表現する映画」というのはどれだけあるだろう。
今までに観ただけでも『ニュー・シネマ・パラダイス』『アイ・ライク・ムービーズ』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』『フェイブルマンズ』がそうだな。
他にある?とGoogleGeminiに訊いてみたら、『エド・ウッド』(1994年、ティム・バートン監督)、『グッバイ・レーニン!』(2003年、ヴォルフガング・ベッカー監督)『ヒューゴの不思議な発明』(2011年、マーティン・スコセッシ監督)を挙げてきた。
いつか観てみたい。
映画の神と恋愛
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