「『ジョージ』は何でも知っている」ブラックバッグ ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
『ジョージ』は何でも知っている
イギリスの「NCSC」のエリート諜報員『ジョージ(マイケル・ファスベンダー)』は、
ある極秘任務を依頼される。
それは、世界に危機をもたらす可能性のあるプログラム「セヴェルス」を盗み出した犯人の特定で、
渡された容疑者リスト五人の中には、
やはり腕利き諜報員で妻の『キャスリン(ケイト・ブランシェット)』の名前も含まれていた。
『ジョージ』は関係者を家に招き、ディナーを振る舞う。
が、食事に仕込まれた特殊な薬剤の影響で
招待客たちの本性が次第に顕わになり、
会は予想外の終焉を迎える。
しかし、この冒頭のシークエンスはほんの掴み。
ここから真の犯人探しが始まる。
入り組んだ人間関係。
ぽんぽんと移り変わる舞台。
唐突に挿入される、一見何の関わりもない事象。
複数の要素が相俟って、頭の整理がなかなかに追い付かない。
ただストーリーも半ばを過ぎた頃、
この一人だけは容疑者候補から外していいだろうとの確信を持てるエピソードが挟み込まれ、
以降は一気に団円に向かう。
もっとも犯人が割れた後も、
おお!そうだったのか!!とのカタルシスも、
あの場面が伏線として機能していたのだな!との驚きも、
見事に騙された!との感嘆も、微塵も得られない。
主人公の冷徹さを示すエピソードは
最初の会食の場面で描かれる。
自身の信条のためなら、実の父親さえ切り捨てる非情さは、
最初のうちは妻にも発揮されるのだが・・・・。
あらゆるツールや情報網を駆使し、
容疑者たちの微細な行動を認識したうえで、
冷静に犯人を特定する『ジョージ』。
その過程の証拠の並べ方、出され方が、
主人公に都合が良すぎて物語りが一本道になってしまい、
抑揚に欠けることが作品としての魅力に乏しい要因か。
更には、
会に呼ばれたことに懸念を示しておきながら、
その場での常日頃とは異なる自分たちの常軌を逸した行いの後も
無防備に過ぎる容疑者たちの行動も
得心が行かぬ背景のよう。
共に『ジョン・ル・カレ』原作の映画化で
〔裏切りのサーカス/Tinker, Tailor, Soldier, Spy(2011年)〕は
組織内の裏切り者を炙り出す過程を、
〔誰よりも狙われた男/A Most Wanted Man(2014年)〕は
組織の非情さを描き、
本作では不満として挙げた点は全て凌駕している。
スパイ小説の専門家との強みはあれど、
同ジャンルの作品を撮るのであれば、
近い域まで迫って欲しかった。
ちなみに「Metascore」での評点は
本作:85
〔裏切りのサーカス〕:85
〔誰よりも狙われた男〕:73
と、まるっきり納得が行く点数とはなっていない。
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