「「夫婦の話」という設定を、活かしきれているようには思えない。」ブラックバッグ tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
「夫婦の話」という設定を、活かしきれているようには思えない。
マイケル・ファスベンダーが演じる、同僚の中から裏切り者を見つけ出そうとする諜報員が、血も涙もないような嫌な奴で、これで、本当に友人がいるのだろうかとか、夫婦仲は良いのだろうかと勘ぐりたくなる。
序盤で、彼と、彼の妻を含む6人の男女(3組のカップル)が晩餐会に集められて、このまま、犯人探しの密室劇が繰り広げられるのかと思っていると、セックスだの、浮気だのといった下賤な話と痴話喧嘩に終始して、その日が終わってしまったことには拍子抜けしてしまった。
やがて、主人公の妻が、隠し口座を持っているとか、チューリッヒで怪しい男と接触しているとかといったことが明らかになって、彼女に対する疑念が一気に高まるのだが、こういう展開ならば、逆に、彼女は裏切り者ではないのだろうと容易に予想できてしまい、ミステリーとしてはお粗末であると言わざるを得ない。
その後、人工衛星を勝手に使ったせいで窮地に陥った主人公と、裏切り者と疑われた妻が、力を合わせて真犯人を見つけ出すような展開になるのかと期待していると、結局、主人公が、ウソ発見器を使った尋問を行っただけで、ここでも、何だか肩透かしを食ってしまった。
おまけに、裏切り者が明らかになる前に、事件の黒幕が分かってしまったり、ロシアの反体制派がドローンで吹き飛ばされるという派手なシーンがあったりして、「これは、最後に描くべきだったのでは?」と思ってしまう。
ラストは、探偵映画さながらに、再び6人を一堂に集めて、「裏切り者はお前だ!」という展開になるのだが、おそらく、推理の決め手となったのは心理カウンセラーの証言で、だとしたら、その直前に明らかになった白人の諜報員と心理カウンセラーの浮気の話とか、冒頭の晩餐会におけるやり取りとかは、一体何だったのだろうという違和感が残った。
それに続くエンディングも、夫婦の愛の勝利みたいな終わり方になっているのだが、そもそも、同じ職場で働きながら、互いに職務上の秘密を抱えている者同士が、仕事とプライベートを完全に切り離して、真実の愛を育むことなどできるのだろうかという素朴な疑問を抱かざるを得なかった。
