「若干違和感もあるが、基本よくできた中国製のスポーツ部活青春アニメ。ビバ!TrySail!」卓球少女 閃光のかなたへ じゃいさんの映画レビュー(感想・評価)
若干違和感もあるが、基本よくできた中国製のスポーツ部活青春アニメ。ビバ!TrySail!
おお、こんなところで終わるんだ!?
ネタバレってよりは、
予備知識として知っててもいい気がするが、
2クールアニメでいうと3話くらいの
辺りの話で終わりました(笑)。
予備知識ゼロで、中華アニメを視聴。
観終わったあとで知ったが、
本国ではWeb配信された全3話を1話にまとめたらしい。
てことは、一応、これで完結扱いではあるのか。
でもびっくりするくらい、
「俺たちの戦いは(以下略)エンド」。
まあ製作陣も、これが当たれば次ってのは考えてるんだろうけど。
もちろんながら、吹き替え版で視聴。
というか原語版での上映も確かにあるから
「吹き替え版」って書いてあるんだよな。
誰がこれの原語版なんか観るんだろうか……。
個人的にミュージックレインの吹き替え海外映画は、
『エンジェル・ウォーズ』以来!!
あれはまるで評価されている気配がないが、
『ウォッチメン』の余韻が適度に残る、
ザック・スナイダーらしい病んだヒロピン映画だった。
あのときはスフィア勢ぞろい。
今回はTrySail +戸松ちゃん。
まあ日本人から見たら、中華アニメってより、
単なるミューレ宣伝映画にしか見えない(笑)。
しかも、四人ともまんま普段どおりの声演技なので、
(とくに雨宮&戸松は聴き間違いようがない)
視聴感覚は、ふつうに深夜アニメの延長だ。
少なくともTrySailのファンには、
こたえられないアニメなのではないだろうか。
― ― ― ―
さて、内容についていうと、
個人的には、ふつうに楽しめました!
中国の文武両道の高校に入学してきた卓球経験者の少女二人が、卓球部で新たな仲間を得て精進を誓うまでを描いた、起承転結でいう「起」の部分を丁寧に描いた青春アニメ。
出演者インタビューでも声優陣が口をそろえて言っていたが、どちらの少女も高校入学までに何らかの「挫折」を味わっていて、新規まき直しとして高校に入学し、過去は過去として踏ん切りをつけたうえで、前向きに卓球に向き合おうとしている部分には、とても共感できる。
挫折や後悔を描きながら、あまりうじうじしていない。
やっぱり好きなものは好き、と早めに割り切っている。
そのあたりは、とても爽やかで、しなやかで、健全だ。
しょうじき、これまで観てきた中華アニメはひどかった。
とくに、日本の深夜に流されている中華アニメで、面白いものに当たったことがなかった。
とにかく、コンテの感覚がダサすぎる。
会話のセンスや間合いがおかしすぎる。
ギャグの入れ方が突拍子もなさすぎる。
キャラの行動原理がぶっ飛びすぎてる。
明らかに「日本のアニメを真似して作っている」のに、一挙手一投足がまったくかみ合わない感じというのは一種独特で、ただただ観ていて気持ちが悪い。
実際、新番組のギャグ系バトルアニメがあまりにもひどい出来で、いざエンドクレジットを見たら(キャラ名を日本名に差し替えた)中華アニメだった、ということが何度もあった。
それくらい、ここ10年くらいのTVサイズの中華アニメは、クオリティが日本と比べて段違いに低かった。世評の高かった『時光代理人』や『魔道祖師』ですら、根本的にナラティヴの組成に問題があった。
ありていに言って、僕にとって「途中で切らずに最後まで観られた中華アニメ」は、本当に今まで一本もなかったといっていい。今クール、フジでやってる『この恋で鼻血を止めて』も、「これぞ中華アニメの真髄」と言わざるを得ないような不気味なコンテと異常な会話のオンパレードで、生理的にとても受け入れられるものではなかった。
そんななか、『卓球少女』は、ふつうによくできていて、感心した。
まず、キャラクターに相応に感情移入できるし、どの娘もそれなりに可愛い。性格設定にもあまり違和感がない。
キャラデザ、動画ともハイクオリティで、何より卓球のアクション動画は凡百の日本のアニメより遥かに洗練されている。
物語展開も自然だし、基本的に善人しか出てこないので「ギスってもすぐにギャグに転化されて深刻な仲たがいにならない」のは、お話として美点だと思う。
ただ、やっぱり「中華臭さ」はぬぐいがたく漂うんだよね。
会話や掛け合いのテンポ感や間合いが、根本的な部分で日本と違う。
日本のアニメをお手本にしているのに、何かが決定的に違っていて、ズレている。
とくに気になったのは、何気ない少女どうしの掛け合いだ。
たとえば、教室で出逢ったジャン・ルオイ(CV:夏川椎菜)とワン・ルー(CV:雨宮天)の「額に当たったピンポン玉」をめぐるやり取り。なんとなく絶妙に間が悪くて、リアクションの応酬のリズムがぶれまくっていて落ち着かない。
それから、タピオカ屋でのジャン・ルオイとリ・シントン(CV:朝倉もも)のやり取りとか。具体的にどこがどう変か指摘しようとしてもとても難しいのだが、日ごろの日本のアニメで慣れたツッコミのテンポ感や間のとり方と絶妙にかみ合わないので、観ていてとても奇妙な感じが残る。
あと、彼らが「模倣」しているのが「ひと昔前」の日本のコミックだったりする部分も、もしかしたらあるのかもしれない。とくにギャグの質とかノリとかは、70~80年代くらいのコミックを読んでいるような、へんてこなトリップ感がある。
あと、作中で3回くらい出てきた記憶があるけど、漫譜としての「汗」(顎からしたたり落ちる)の使い方が、日本とは決定的に違ってるよね?
とはいえ、今まで観てきた「図抜けて技術的に下手くそ」な中華アニメと比べれば、民族の相違によって生まれた「ズレ」程度のものなので、そこまで気にするほどのものでもない。
きっと、アメリカ人がイタリア製西部劇を見て感じるくらいの違和感。
あるいは、中国人が日本の中華料理を食べて感じるくらいの違和感。
むしろ、かつては辺境の朝貢国だった日本の青春アニメのテイストを、かの大中華帝国が認め、気に入って、ここまで精妙に模倣してくれる時代が来たことに「誇り」と「感謝」を感じるべき事例なのかもしれない。
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「演出のリズムやギャグ、台詞の組み立て」の醸し出す違和感は、ある程度クオリティと直結した「出来」にまつわるものでもあるが、「風土や舞台背景」の生み出す中国ならではの特別なテイストは、純粋に観ていて愉しいし、「差異」として新鮮に受容できる。
卓上に並ぶ料理がガチ中華だったり。
校庭に普通に蓮池と四阿があったり。
大河の周りにビル群が立ち並んで、背後に山地が控えている杭州の街の風景が、ものすごくソウルを思わせたり(むしろ韓国が中国の街づくりを踏襲してるんだろうね)。
町中の至るところに「野良卓球台」があって、小さなころから多くの子供たちが屋外卓球を愉しんでたり(昔、仕事でドイツのフランクフルトに出張したときに実際に見たことがある。そういえばあの国も卓球強豪国だ)。これだけ遊びとクラブ活動に卓球が入り込んでたら、そりゃ強い選手もたくさん輩出されるよね。ちょうど日本の「野球」と似たようなものだ。
中国と日本に「違い」ばかりがあるわけではない。
むしろ「よく似ている部分」もたくさんある。
とくにユースカルチャー。日本の若者文化とは異なるようでいて、思いのほかよく似ている中国の若者文化に、おおいに興味がわく。おお、この子たち結構日本と変わらない青春を謳歌してるじゃないか。
観ていて、いろいろ気づくことがある。
タピオカ屋で放課後に買い食いとか、タピオカって台湾だけじゃないんだな、とか。
携帯依存と、ほぼラインそのままのSNSの存在、そこでの絵文字のやり取り、とか。
ジャージ登校って、なんか日本でも田舎の方では今でもふつうにあるらしい、とか。
その他、ファッション、ショッピング、メモ回しなど、本当に日本の高校生とおんなじようなことをやってるなあ、と。
あと、ロン・シャオ(CV:和泉風花)が「中二病」と呼ばれてて、WEB上のハンドルネームの活字としてもちゃんと「中二病」と出ていたのにびっくりした。「中二病」って単語、日本のオタクカルチャー発でしっかり大陸まで伝播してるんだ……!! それとも、あそこだけ日本語字幕版で文字を置き換えてるとか? そんなことはしないよね。
学校での勉学や試験勉強が大変そうなのも、日本と変わらない。
こいつらも寝っ転がりながら、ディオリンゴみたいな英語学習してるし(笑)。
むしろ「卓球か勉学か」とか、親元を離れて高校入学とか、日本以上の「競争社会」に中国の子供たちがさらされている現状がよく伝わってくる。
(「地元の大会」で勝ち抜いて「国家の上澄み」になることを日々の目標とし、それを親・子とも当たり前に受け入れている感覚が、いかにも科挙の国らしい。)
逆に、そういう管理社会のなかでも、ディン・シャオ(CV:戸松遥)のような野生児がきちんと居場所を見つけていて、かつ学友も彼女のADHD的な行動を許容している辺りにも、「思った以上に日本と変わらない青春群像」を感じることができる。
そんな日本と異なる中国という国を舞台に、
日本と同じような青春群像をテーマとして、
日本でやってるような部活アニメが観られる。
なんと幸せなことではないか。
そして、中国においてスポコン&百合百合アニメをやるなら、それはやはり「卓球」以外にない、ということなんだな。
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以下、雑感。
●『魁!男塾』の雷電のように、ひたすら卓球の知識と用語を解説しつづけてくれるリ・シントンのキャラクターは、『ラブライブ!』のにこやかすみん、『響け!ユーフォニアム』のサファイアちゃん、『ちはやふる』の大江奏辺りとも通底する便利キャラ。間違いなく日本の部活ものアニメのキャラから学んで引っ張ってるよね。
●「出来るお姉ちゃん」への敬愛と挫折感というのも、部活アニメやアイドルアニメの王道テーマ。『俺ガイル』の雪ノ下とか、『IDOLY PRIDE』の長瀬琴乃とか。
●ワン・ルーの取り巻き三人組も、最近の悪役令嬢ものや転生中世ものでよく見る定型のキャラクター。もとは少女漫画がベースだと思うが(お蝶夫人の取り巻きとか)、何があれの元祖なんだろうね?
●部活の勧誘をやったり生徒の管理をしたりして、お茶ばっかり飲んでいるジャオ・スーチン(CV:津田美波)って、ふつうに2年生の部長なんだな。最初はそう思って観てたんだが、あまりに管理側の仕事を普通にやってるうえに、職員室(?)でコーチの向かいに席まであるから、途中から先生の助手か何かだと勘違いしてました。てか、90分もやって、部活の先輩の卓球してるシーンをどこにも出さないとか(あれ、あったっけ? なかったよね?)、日本のアニメでは多分あり得ないよな。
ちなみに、ジャオ・スーチンが魔法瓶のキャップを開け閉めするシーンでは、明らかに作画ミスと思われる(蓋がめりこんで見える)ところがあった。
●ボールが閃光を放つ派手な演出とかは、いかにもアニメといった感じでとても良かった。ちょっと『ミスター味っ子』みたいな極端さがあって。
ラスト近くの卓球対決シーンも、かなりマニアックに「卓球」の見せ方を考え抜いていて、すばらしかったと思う。
●日本のアニメと違って、何かが決定的に足りないな、と思っていろいろ考えてて、ハッと気づいた。そうか、「巨乳」キャラがどこにもいないんだ……(笑) これも文化差ってやつですかね。
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