劇場公開日 2025年6月27日

「本物のF1を観ているかのような興奮と感動を堪能」映画「F1(R) エフワン」 おきらくさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 本物のF1を観ているかのような興奮と感動を堪能

2025年7月2日
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万年最下位のチームを立て直すため、表舞台から姿を消していた天才レーサーを招集し、チームの浮上を目指すも、孤高の天才とチームメイトたちは最初、意見が合わずに対立していく……というのは、物語の導入としてはよくある展開で、本作も当初はそんな流れだった。

ところが、ブラッド・ピット演じる元天才F1レーサーのソニーは、周囲の意見を聞かず自分本位に行動していると思いきや、実はその行動がチームメイトである新人レーサーのジョシュアを勝たせるためのサポートになっていることが判明する。
ソニーは自分が喝采を浴びることよりもチームの勝利を優先し、そのためなら自己犠牲も厭わない精神の持ち主だった。
身勝手な人物が痛い目を見て真っ当な人間になる話は数多く見てきたが、この映画はそれらとは異なり、身勝手そうに見えていた人物が実は最初から「フォア・ザ・チーム」の精神を兼ね備えていたという作りが新鮮で、すぐにソニーのことが好きになった。
チームスポーツを題材にした映画の主人公としても完璧。
最初は怪訝そうにしていたチームメイトたちが、いつの間にか彼に全幅の信頼を置くようになるのも納得。

チームのもう一人のレーサーであるジョシュアの方は、映画でよく描かれるようなジコチューで、才能を過信し、自分の成功しか頭にない男。
しかし、最初は鬱陶しいと感じていたソニーと衝突していくことで、徐々にソニーに感化され、その行動を真似るようになり、少しずつ利他的な人間に変貌していく。
後半は非常に好人物になっていた。
最後の大会では、ソニーとジョシュアの二人が、互いの活躍を最優先に考え、自分のことは後回しにする姿が観ていてたまらないものがあった。

このようなレース映画でよくある展開として、途中で予想だにしなかった衝撃的な事故が起こり、そのことで主人公たちが闇を抱え、映画のトーンも後半から悲壮感を漂わせることがある。
本作にも衝撃的な事故シーンはあり、映画館内にはショックが広がったように感じられたが、悲劇的な雰囲気の場面はすぐに終わり、事故に遭ったドライバーは命に別状がないことがすぐに判明。
むしろ、事故がなければ優勝していたかもしれないという点に意識が向けられ、チーム全体が悲壮感を引きずることなく次の勝利に向けて動き出し、盛り上がっていくのが個人的にはとても良かった。
特に日本映画に多い印象だが、後半に突発的な悲劇を起こして役者に泣かせたり叫ばせたりして無理やり感動的な場面を作ろうとする映画が苦手な自分としては、本作の作りには好感しかなく、その点でも素晴らしい映画だと感じた。

最終レースは、ど迫力の映像に先の読めない展開で、まるで本物のF1レースを観ているような気分になり、本気でハラハラドキドキした。
2022年公開の『THE FIRST SLAM DUNK』を観た時も、作品がよくできていて本物のバスケの試合を観ているかのような興奮が味わえたが、本作もそれに匹敵するものがあった。

おきらく