「その言葉は、口にする人によって薬にも毒にもなる呪文」愛されなくても別に ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
その言葉は、口にする人によって薬にも毒にもなる呪文
オーラルでフィジカルで、西洋人はのべつまくなしに
相手に対しての愛情を表現する。
まるでそうしていないと、
当人同士の関係が切れてしまうかのように。
対して日本人の愛情表現は淡泊。
互いに相通じていることをわざわざ口にするのは稀。
「愛している」の言葉はそうそう聞くことはない。
なので発せられた時には、ぎょっとすることすらあるだろう。
三組の毒親とその娘が登場する。
うち一人の母は「あなたを愛している」の言葉で、
もう一人の母は「あなたのことを心配している」の言葉で
娘を縛り付け支配下に置こうとする。
言葉面からは娘のことを慮っているように聞こえるが、
実際は繋ぎとめることで自己の安寧を図っている。
それに対し三人の娘は、
彼女らなりのレジスタンスを起こす。
『宮田陽彩(南沙良)』は浪費家の母にかわり家計を支える。
奨学金を得て大学に通いながら昼夜のアルバイトをこなし
家にお金を入れる日々。
金銭的にも搾取する母親との関係性はメンタルにも影響を及ぼす。
栄養はエナジードリンクとカロリーメイトで摂取し、
それ以外の固形物を口にすることは過少。
他人との関係性は極端に薄く、
肌がふれるだけでも拒否反応を起こす。
そうした時に「ライナスの毛布」として機能するのは
トイレの芳香剤。
肺一杯に吸い込むことで気分は落ち着くのだ。
そんな彼女が、
母親から売春を強要された過去のある『江永雅(馬場ふみか)』と知り合い
次第に自分を取り戻す。
それなりのイニシエーションは経るものの、
再生には必要なステップ。
とりわけ川の深みに揺蕩う場面は、
自らの意志で羊水から出て来るイメージを想起させる。
母の過干渉に悩む『木村水宝石(本田望結)』は
自身を無条件に受け入れてくれる宗教にのめり込む。
そこでは皆が笑顔で接し、疑似的な家族が形成される。
が、それで本当に束縛から逃れることができるのか。
束の間の安寧を得ているだけなのかは当人にも判らない。
特異な母親を持った娘は不幸であり、
その苦しみは他人には理解できぬと強い口調で吐露するが、
生きる人々は皆々それなりの悩みを抱えており、
軽重は他人にはうかがい知れぬところ。
幾つもの台詞は、浮遊して聞こえるのが残念。
タイトル通りの終幕により、
ほの明るい未来は示される。
ただここで氾濫する「愛」は全て打算に基づいてのものであり、
最初から献身ではなかったわけだが。
一種の寓話ではあるものの、
リアリティはどうだろうか。
例えば『雅』の住んでいるアパートは、
コンビニのバイトの収入だけで維持できるのだろうか。
揃っている家具類についても同様だが。
物語りの魂は細部に宿る。
納得感のある設定は欲しかった。