「そんな「愛」ならいりません」愛されなくても別に かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
そんな「愛」ならいりません
愛してほしいのに裏切られるばかり、むしろ気持ちを利用していいように扱われる。それならもう、愛されなくても良い、人に期待することなく、自分は自分で生きていく、それは長年傷つけられてきた江永が会得した真理なのだろう。江永が、愛されるには見返りを差し出さないといけない、と思い込んでいるようでもある。
女子大生3人が3様の毒親持ちだが、程度にはかなり差がある。
江永の境遇は宮田のとは比べものにならないくらい悲惨で、その過程で身についたに違いない達観と包容力がすごい。宗教にはまった木村に、「あたしの不幸なんて大したことないと思ってるでしょ!」と言われてしまう宮田に、「ほらまたあんたの不幸自慢が出た」とさらっと言えてしまう深さがある。何度か襲われ殺されかけた男が実の父が起こした事故の犠牲者の息子と知って、「彼も被害者だから」と理解を示してしまう人生何周目かと思うくらいの諦観は、木村がハマったコスモ様(だっけ?)よりもよっぽど悟りが近いと思う。
不幸マウントしがちな宮田は、自分の境遇をぽつぽつ話す江永を、「自分より上じゃん」と思ったのか、そっと江永に寄り添って「えらかった、えらかった、江永はよくがんばったよ」と慰め続けるが、それが江永にはとてもうれしかったよう。彼女はそういう些細な思いやりの言葉に飢えていたのだ。
宮田への母の「愛してる」は、ただの呪文。
宮田も信じたくなかっただけで母が自分を都合よく利用していることは感じていた。
だけど親を喜ばせたくて尽くしてしまう宮田、捨てられたくないから、愛されたいから。というよりすでに、母の呪縛にがんじがらめで尽くす以外の選択肢を知らなかったが、少しづつ疑問を持てるようになってきた状態。
母はそれを知っていて、使う呪文が「愛してる」。
娘が離れて行きそうな時、思う通りにしたいとき、にっこり笑ってそういいさえすれば、あら不思議、娘は元通り言いなり、自分の奴隷に戻る、オールマイティな呪文なのだ。
宮田が自ら呪縛を解いて、それが通用しなくなったのが痛快。
「貴方は貴方の人生を生きたら良い、私は私の人生を生きる」と宣言して後ろも見ずに去っていく。それでいいのだ。
宮田の母のような友達や知人がいたら、そんなヤツさっさと縁を切れと多くの人は言うだろうが、親というだけで「そうは言っても親は親」と途端に子供に我慢を強いて良しとするのはなぜだろう。
教団の教祖は、江永の追及を余裕で躱しているようで実は何一つまともに答えられていない。答えられないのを「しょーもない小人のたわごと」と聞き流すふりをしているだけ。最後は有り難い御託宣で締めくくる。「親を大事にしなさい」
彼女は、親の子供に対する虐待が認知されるようになって久しいのに、被虐待児の幸せに対しては思考停止している世間そのものだ。
木村が親の過干渉から逃れたい一心でのめりこんだという宗教の教祖の金言が、「親を大切にしなさい」ってなんでしょうか、結局彼女は親離れしようと考えていない、親に甘えて反抗ごっこしているだけなのでは、と思ってしまう。不幸自慢ということではなく、親にたっぷり仕送りを貰い大学へも通わせてもらって、本当に親が嫌なら全部断って自分で自分を養い学校へ行くくらいしてみたら、と思ってしまう。それができないならあと少し我慢して親を利用して大学出て就職して、自分で食えるようになったらあっかんべーすればいいんじゃないですかね。私ならそうしますね、私のためにお金出すような親いませんが。
または、呪縛が強すぎて無意識下でも親から逃れられないのかも。
宮田と江永、ふたりののびのびした生活が心地よさそう。
好きなように昼寝するふたりには、何とも言えない安堵が見える。真夏のこたつは笑ったけど、中に氷バケツでも入ってるんでしょうか。
宮田が母に決別を告げられたのは、江永との関係で見返りを要求されないのが「愛」だと、翻って自分の母の言う「愛してる」は呪文で、本来の愛とは程遠いものだと、確信したからだろう。そんな「愛」なら愛されなくて結構、と言い切る自信が持てたと思う。
江永もきっと、宮田のおかげで愛はバーターで得るものという誤解を解いたのでは。
宮田の誕生日は、いつものカルピスハイで。
日付が変わるのを、コンビニでカウントダウン。
そこ生真面目で、20歳まで飲まない飲ませない二人がいい感じ。
文句ばかりで一見嫌な奴堀口も、なぜかふたりを見守っているし。
親ガチャ大外れなふたりが、幸せになりますように。
南沙良、馬場ふみかの二人がとても良い。
特に馬場ふみかは、包容力と達観と若さの青いところを併せ持った難しい役を好演していて、江永が大好きになりました。南沙良は、きっちり働き家事をして、講義を欠席したら都度ノートを写させてもらうまじめだが覚めていて少しやさぐれている宮田がハマっており、母を振り切った姿がとても清々しかった。本田望結はちょっとダサい地方のお嬢様木村を、とてもうまく演じていてさすがベテラン。
河井青葉さん、あんに続いて毒母。。このままでは毒母女優になってしまいそうだが、ぴったりなんですよね。
コメントありがとです。
過度のストレスが慢性的であるのなら切り捨てる選択肢があっていいんじゃないか。それがたとえ親であったとしても。当事者は相当しんどいとは思いますが、そういう視点を残してくれる作品でした。必要な人に届けばいいなって思います。
コメントありがとうございます。
名前呼びイベントが感動に繋がる作品ももちろんありますが、本作はやらずに正解ですよね。
声の温度感なども含めて、関係性の変化は十分に伝わってきました。
コメントありがとうございます。
本田望結ですが、地方の裕福な家庭・・・確かにそうですね。
きさらぎ駅reでもあんな太って重そうだったからイメージ悪かったかもです。
これからシュッとした役をする時どれくらい絞ってくるか楽しみにしておきます。