「”ふつう”って何だろう」ふつうの子ども 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
”ふつう”って何だろう
9月に公開された本作。観たいと思いながらも都合がつかず、ようやく今回キネコ国際映画祭での上映で劇場鑑賞が叶いました。ちなみにキネコ国際映画祭は「アジア最大級の子ども映画祭」と銘打たれており、当日も多くの子どもたちが来場していました。
もっとも本作は“子どもが主役の映画”ではあっても、必ずしも“子ども向けの映画”ではない点が興味深く感じられました。もちろん子どもでも楽しめる内容ではありますが、大人が観ても考えさせられる部分の多い作品でした。
物語の主人公は小学4年生の唯士(嶋田鉄太)。普段は友達と虫を捕まえたりする“ふつうの子ども”ですが、想いを寄せるクラスメイト・心愛(瑠璃)が、グレタ・トゥーンベリよろしく環境問題に目覚めたことに触発され、彼女に注目されたくて環境活動にのめり込んでいく――というお話です。
ただ心愛は、グレタさんを模したと思しき海外の環境活動家に影響されているものの、仲間を煽ってどんどん過激化していく様子は、どちらかといえば永田洋子を彷彿とさせるタイプ(あくまでイメージですが)。唯士のほか、クラスメイトの陽斗(味元耀大)も巻き込み、“テロ”まがいの活動を実行していきます。最初は車に張り紙を貼る程度だったのが、次第にエスカレートしてついにはケガ人まで出る事態に。3人の母親は学校に呼び出され、先生を交えて話し合う場面となるのですが――この場面こそが本作最大の見どころでした。
もともと性格も環境問題へのスタンスも異なる唯士・心愛・陽斗の三人の対比が描かれていましたが、彼らの母親たちもまた全く異なるキャラクターとして描かれ、そのコントラストが非常に面白かったです。
唯士の母・恵子(蒼井優)は標準的で中立的な立場。一方、陽斗の母は完全に“わが子びいき”で、普段学校では活発な陽斗が泣きじゃくる中、彼女は必死にかばおうとします。
そして圧巻だったのが、心愛の母・冬(瀧内公美)。その場の空気を一瞬で支配する迫力と、人前で娘を罵倒する筋モノのような風格で、まさにすべてを持っていった感がありました。
しかし、冬=瀧内の圧倒的な存在感がMVPをさらいそうになったその瞬間、唯士が絞り出すように、環境問題に関わった本当の理由――心愛への恋心――を告白します。その言葉に冬も唯士を見直し、最後には心愛からも「I love you」と言われるという、思わぬ“モテ男誕生”で幕を閉じました。
物語全体を通じて、「ふつうとは何か」を考えさせられる作品でした。子どもが裏山や公園で遊ぶのは昔から“ふつう”でしたが、今では外で遊ぶ子どもの姿はむしろ珍しい。心愛のように大人びた子もいれば、陽斗のようにやんちゃな子もいる。つまり“ふつう”には幅があり、“ふつうじゃない”ことを探すほうが難しいのかもしれません。
互いの“ふつう”を認め合い、尊重することこそ大切なのだと、改めて感じさせられる作品でした。
そんな訳で、本作の評価は★4.6とします。
