「今まで観た映画の中で最高の子供の演技」ふつうの子ども おきらくさんの映画レビュー(感想・評価)
今まで観た映画の中で最高の子供の演技
小学4年生の女の子・心愛の終盤の演技に度肝を抜かれた。
個人的に、今まで観た映画の中で最高の子供の演技だったと思う。
壊れたロボットにも見えたし、救いを求める魂の叫びにも見えた。
強制的に涙腺が決壊してしまった。
本格的な演技は本作が初だというから信じられない。
たぶん、監督の手腕もかなりあると感じた。
この映画のメッセージを体現する、とても重要な場面だったと思うが、それに見事に応える演技だったと思う。
同じ小学4年生の問題児・陽斗も、普段はクールぶっている人間が窮地に立たされた時の末路を見事に体現していた。
2015年公開の、リューベン・オストルンド監督作『フレンチアルプスで起きたこと』に出てくる父親を思い出した。
主人公の唯士は、他の二人に比べると少し幼く、純粋無垢な感じ。
彼が主人公だからこそ、映画が観やすくなっていると思う。
最初は唯士が画面に映るたびに、2022年公開の映画『LOVE LIFE』を思い出して切ない気持ちになった。
映画全体を通して、子供たちの演技や存在感がとてもリアル。
まるで子供たちの日常風景をそのまま映し取っているようだった。
読書感想文の発表会で、コソコソ話している生徒がいる感じとか、本当にすごい。
脇役の子供に至るまで、どこかで見たことがあるような気がした。
大人の描かれ方もリアル。
特に担任の先生。
読書感想文の発表会での、心の底から褒めているわけではなく、とりあえず褒めている感じがすごく伝わってきた。
また、生徒の真剣さを感じ取れず、「自由と悪ふざけは違う」と言って、心ない言葉で無自覚に生徒を傷つける感じも「あるある」だと感じた。
前半は、小学4年生の唯士、心愛、陽斗の三角関係の話になっており、小学4年生版『愛がなんだ』と思った。
自分が好きな相手には積極的に行動するが、自分を好きな相手には扱いが雑になる。
唯士に対して常にそっけない態度をとる心愛が、陽斗と笑顔で楽しそうに会話するのを遠くから眺める唯士の姿に、自分も身に覚えがありすぎて悶絶した。
中盤から、環境活動家がテロリストに変容していく様子が描かれていく。
それをやっているのが小学生3人というのが面白いところ。
彼らは根っからの悪人というわけではなく(陽斗は悪人な気もするが…)、3人それぞれの特性がまずい形で組み合わさった結果、本人たちは良いことをしているつもりなのに、結果的にテロ活動になってしまっている。
この脚本の作り方が上手いと思った。
唯士が他の二人に「ロケット花火を使ったら二酸化炭素を出しちゃうから環境に悪いのでは?」と問う場面は、子供特有の些細なことにいちいち絡んでくる面倒くさい感じで滑稽にも見えるが、過激な活動をする環境活動家の問題点を鋭くついているようにも感じた。
途中の環境問題に関する授業の場面では、教室で流されている映像が退屈すぎて、生徒たちは眠気と戦っている。
学校側としては環境問題の授業をやったつもりになっているのだろうが、こんな内容で子供たちが環境問題に関心を向けるはずもなく、ほとんどの日本人が環境問題に無関心な原因の本質をついている場面だと思った。
この映画最大の見せ場は、終盤の3組の親子が一堂に会する会議室の場面。
唯士以外の親はここで初めて姿を見せるのだが、親たちが見せるちょっとした言動だけで「こういう親に育てられたから、こういう子供に育ったんだ」という説得力が感じられた。
本作の中で最も緊張感の高い場面ではあるが、唯士の純粋無垢ゆえの馬鹿正直さに思わず笑ってしまった。
子供にとって、大人の存在がいかに大事かを痛感させられる場面だった。
本作のタイトル『ふつうの子供』には、2021年の西川美和監督作『すばらしき世界』や、昨年公開されたドイツ映画『ありふれた教室』と同様に、痛烈な皮肉が込められているように感じた。
この映画で残念だったのは、環境活動がダメなものとして描かれている点。
あまり環境問題に関心がない人がこの映画を観たら、「環境活動なんてろくなもんじゃない」という印象を与えかねないと感じた。
もしかしたらそれが監督の本音なのかもしれないが…。
行きすぎた活動はもちろん良くないが、環境問題自体は存在するわけで、もう少し環境活動のポジティブな面も描かれていればと思った。
今年は子供視点の映画が豊作な気がした。早川千絵監督作『ルノワール』やベルギー映画『Playground 校庭』、あとこれは公開は昨年だが、今年のアカデミー賞で短編版が短編ドキュメンタリー部門にノミネートされた『小学校 それは小さな社会』など、心に残る傑作揃いだが、夏の終わりにさらにとんでもない子供視点の傑作が出てきたと思う。
映画を観終えて部屋を出ようとしたら、母親とランドセルを背負った息子が横並びに歩いていたが、二人は会話もせず静まり返っていた。
目の前を歩く少年がこの映画を観て、何を感じたのかが気になった。
