劇場公開日 2025年9月5日

「実写化したことで起きた致命的な欠点」ヒックとドラゴン おきらくさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0 実写化したことで起きた致命的な欠点

2025年9月8日
iPhoneアプリから投稿

アニメ版はかなり昔に観た記憶があるが、内容はうろ覚えの状態で、今回の実写版を観た。

アニメ版は面白かった記憶があったものの、実写版は正直、イマイチに感じた。
帰宅後、アマプラでアニメ版を見直してみたところ、まず驚いたのが、実写版が冒頭のナレーションからアニメ版を忠実に再現していたこと。
リメイク映画で、ここまで原作と展開がそっくりなのは非常に珍しい気がした。

アニメ版は、後に実写化されることを前提に作られたわけではないため、アニメだからこそ可能な演出が満載。
それを実写で忠実に再現するのはかなりの難易度だと感じるが、その点において本作はかなり成功しているように思えた。
特に、主人公のヒックがドラゴンのトゥースに乗って高速で飛行するシーンは、生身の人間とCGのドラゴンを組み合わせたジェットコースターのような映像に仕上がっており、驚異的な映像技術の高さを感じた。

ただ、個人的に本作の実写版を楽しめなかった最大の原因は、テンポの悪さ。
内容はほぼ同じなのに、上映時間は98分から125分へと約30分も増加している。
実写版鑑賞後にアニメ版を観ると、登場人物たちの動きが1.2倍速のように感じられた。
逆に言えば、実写化する際に人間の動きがリアルな速度になった結果、アニメ版よりも間延びした印象を受けた。

また、実写版はリアリティを持たせるために描かなければならない描写が増えたことで、話が長くなったようにも感じた。
その結果、アニメ版ではテンポよく話が進むため気にならなかった描写が、実写版では考える時間ができてしまい、「それっておかしくない?」と思うことが増えた。

まず、冒頭でドラゴンの群れがバーク島の村を襲う場面。
アニメ版では「ドラゴンにいたずらされた」程度の被害に感じたが、実写でリアルに描かれると、村はほぼ壊滅状態で、復興には最低でも数ヶ月かかりそうに見えた。
村人たちは昔から定期的にこの被害に遭っているわけだから、アニメ版よりもドラゴンを殲滅したいという憎悪の念が強く感じられる作りになっていたと思う。
そのため、後半、村人たち、特にアスティと父親のストイックがドラゴンを受け入れる場面があまりにもあっさりしていて、違和感がすごかった。
物心ついた頃からドラゴンに対して積年の恨みがあるはずなのに、簡単に心変わりするのは不自然に感じた。

ドラゴン退治の訓練のための闘技場の場面も、アニメ版では気にならなかったが、実写版ではいつ死亡事故が起きてもおかしくないように見え、訓練としてのリスクが高すぎるように感じた。

他にも、トゥースを船の先端に縛りつけたらバイキングたちがドラゴンの根城に辿り着ける理屈がよく分からなかったり、ヒックがトゥースを乗りこなすのに苦労したのに対し、他の仲間たちがあっさり乗りこなしていたりする点にも違和感を覚えた。

あと、これはアニメ版を観た時から感じていたことだが、バイキングとドラゴンの関係が現代における人種問題のメタファーのように思えてくることがある。
その視点で観ていくと、ラストが「対立する相手は奴隷にすれば良い」という結末に見えてしまい、強烈な違和感を覚えた。
この映画を人種問題のメタファーとして観る見方が間違っているだけなのだが、アニメ版でも指摘されていた点なので、実写版でも変わっていなかったのは残念。

重厚な人間ドラマを好む人には良いのかもしれないが、個人的にテンポの良い映画が好きなので、実写化して良かった点もありつつも、アニメ版ほど心に響かなかった。
もしアニメ版がなく、この実写版だけが作られていたとしたら、『ヒックとドラゴン』という作品は、映画ファンの間で長く愛される名作にはなっていなかったように思える。

おきらく
PR U-NEXTなら
映画チケットがいつでも1,500円!

詳細は遷移先をご確認ください。