「2010年のガラガラな映画館を今でも覚えてるから」ヒックとドラゴン 弁明発射記録さんの映画レビュー(感想・評価)
2010年のガラガラな映画館を今でも覚えてるから
今でも覚えている。『ヒックとドラゴン』のCGアニメ映画一作目が日本で公開された2010年の夏はかなりの激戦区だったことを。そのあおりを受けて映画館がガラガラだったことを。
今調べたら同じ時期に借り暮らしのアリエッティ、トイストーリー3、仮面ライダーW、さらにポケモンやナルトの映画まで公開されてたんだよな。初登場8位は当時としては健闘した方だと思う。
だが、客がほとんど入っていなかった映画館で当時の自分がこう思ったのも確かだ。
「これほどの傑作をもっと競合が少ない時期に公開できなかったのか?」と。
マジで映画史に残る傑作だったんだ。そしてその割に客が全然入っていなかった。
『ヒックとドラゴン』は自分にとって極めて珍しい「不特定多数の人にオススメしやすい傑作だが日本においては知名度がイマイチ低い映画」だったんだよ。それが当時の9億円という日本での興行成績に表れている。
そして今回の実写版だ。アニメと同じ監督なら期待はするだろう。
感想。やっぱり『ヒックとドラゴン』は傑作だった。
ドラゴンボールとモンハンを生んだ日本にも日本版ヒックとドラゴンを作って欲しいくらい。
まあ、実写ならではの気になったところはある。
例えば中盤までのヒックの親父、同世代ライバルの奴らは必要以上にバカっぽく見えたしヒロインもやたら攻撃的に見えた。アニメでやったことを実写で同じようにやるとちょっと印象が変わる現象ね。
あと、あれだけ空でぐるぐる暴れながら飛んでたらヒックももっと異常に汗だくになるだろう、とか。空を飛ぶ場面で特に夜にオーロラを見るあたりとか、穏やかに飛ぶ場面とはいえもっと髪が乱れるんじゃねえか、とか。炎の試練もあれだけ炎を吐くドラゴンがいる場所だと暑すぎてもっとみんな汗かいてるはずだろう、とか。ハリウッドにおいてすら、そこら辺はまだ難しいんだよな。画面の情報量や、綺麗さ維持のバランス、衣装やセットの兼ね合いもあるし。
序盤の色々なドラゴンが村を襲う場面は全体的にちょっとカメラが寄り過ぎじゃないか、とか。
細かいところを言い出せばきりがないのよ。
でも、正直そんなことは些細に感じるほどに観たい場面は全て観せてくれた。
ドラゴンの背中に乗って!足で飛び方を調整する機構ね!あれ、アニメで観た時もすげえよく考えたなあ、と感心したが実写でもきちんとやってくれた。
メモをしっかりとってトゥースの尾びれを作るところがヒックなのよ。彼を彼らしくしてるのはあのメモ、設計図、メカニクスだ。
あとヒロインね。ヒックをこずいて「これは驚かしたぶん」からの「これはその他もろもろ」でキスしてくるのずるいだろ、ホレてまうやろとアニメでも思ったが実写でも同じこと思ったわ。
で、それ以上に重要なのがトゥースが捕らえられて船で連れていかれてからヒックに問う場面ね。あなたはどうしたいの?って。ああいうの、重要なんだよな。主人公自身が自分で自分の心の声を言葉にして、これからどうしたい、と口にして自分自身に気付かせるやつ。アニメ版でも特に印象に残っているのがこの場面だった。アニメ版よりさらっとしていた感はあるがこれも実写でやってくれたのは嬉しい。
同世代のライバル、仲間達が後半で一応見せ場があるところもいい。双子は二首龍と相性が良くて、「攻撃力8」とかやたらゲームっぽくドラゴンに詳しいおデブも一応、巨大なラスボスをちょっとひきつけることはできたし、立派な父を持つ黒髪のあいつも目への攻撃という勇敢な姿を見せた。あいつが落ちそうになった時に助けるのが双子の乗った竜なのもよい。そしてヒロインは優秀な人だからみんなに的確に指示を出せるから。
こういう脇役っぽい人達の見せ場を作るのって結構難しいのよ。尺も使うし、主人公の出番を削るのも良くないし。ドラゴンに乗るのにまだ慣れてなくて割とすぐ戦線離脱にはなるけど、ちょっとでも活躍する場面がある、ってすごく良いことなのよ。ちりばめた伏線に無駄がない気がするから。
音楽も同じの使ってくれて嬉しかった!あのケルト感があり壮大な感じもあるあのテーマ曲が流れるとワクワクするんだよな。
トゥースも元の要素をきちんとおさえつつ実写ぽい質感に仕上げたのはさすがだと思った。ドラゴンの背中に乗って飛び回る場面を見ると「自分もドラゴンに乗ってみてえ」って思うよな。そう思わせる力がこの映画にはあるのよ。
序盤から義足になった子が出てきたり、義足義手のあのオッサンがドラゴンとの闘いで手や足を失ったことを示す。これが伏線になり主人公はラストで片足が義足になる。ここの流れもアニメと同じだった。ここをやるから『ヒックとドラゴン』は印象に残るんだよな。
ドラゴンを殺す対象としていた村がラストで主人公の影響でドラゴンと共生する村に変わってるのがまた良いのよな。
中盤までの親父がヒックと話をちゃんと聞かないで自分の言いたいことばかり喋ってしまう感じは父と子のすれ違いがよく出ていた。
で、そんな「ドラゴン殺すべし」の親父が終盤で水の底に落ちていくトゥースをもぐって助けるのが熱いんだよな。
「どんな結果になろうともお前を信じている」とヒックに言う親父。この親父のように、公開初日でまだ興行成績がどうなるか分からないタイミングだが「どんな結果になろうとも『ヒックとドラゴン』を信じてる」から、俺は。
今回も歴史的記録更新をしている鬼滅の刃とほぼ同時期というよりによってなタイミングではある。だが!9月公開で直接の戦いはさけている。ラージフォーマットもあるし、俺が行った初日の回は席数が少な目だったこともあるが結構ちゃんと埋まっていた。少なくとも2010年のあの時より宣伝されてるし客も入っている。アニメ版一作目が公開されてから10年以上経ってるからさすがにこの傑作シリーズのことを知ってる人も増えてきてるのよ。それを確認できただけでも充分だ。
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