「考察で盛り上がりたい、見る人によって感想が異なる映画」火喰鳥を、喰う れちこさんの映画レビュー(感想・評価)
考察で盛り上がりたい、見る人によって感想が異なる映画
 戦地で死んだ大叔父の手帳が、信州に住む夫婦の元に届くことから始まるミステリー&ホラー。
 映画ではホラー分は薄くなり、SFミステリーの様相が強い。SFといってもサイエンスフィクションではなく『すこし不思議』の方。オカルティックでスピリチュアルで、ある意味ファンタジー。『もしもあの時、ああだったなら』で分岐する想像の中のIFの世界が、今ある現実を乗っ取ろうとする、その争いが描かれている、と言っても良い。
 いろんな暗喩やモチーフがちりばめられていて、考察が好きな人向けの映画であることは間違いない。いろんなシーンから考察の種を拾うことができるため、何回見ても新たな発見や気づきがあり、楽しめるつくり。ただ、考察系映画であることを謳ってはいないので、そういう映画が好きな人にまで届かなさそうなのが残念。
 この怪異に巻き込まれる人々の、『自分の認識が侵食されたことに気付く瞬間』の演技がかなり良い。雄司の問いかけに、保、夕里子の虚を突かれた顔。
 それから、伸子の、電話を切るシーンはかなり秀逸。必死に目を反らしていた過去を漏らす時の恐怖の表情。
 前評判では、北斗総一郎を演じた宮舘涼太の怪演に評価が高かったように思う。北斗という人物の奥行きは彼にしか出せないものだと思うし、濃い輪郭線に彩られているかのような、周囲から浮き上がる異質さは見事だった。しかし、その異質さを際立たせる雄司(を含む周囲)の普通さがあるからこそ、とも言えるのでは。また、普通であろうとして、実は半歩ほどはみ出してしまっている夕里子の存在感も印象深い。
 結局のところ、戦地で帰還兵が食べたとされる火喰鳥とは何だったのか? 複数人が『そうだ』と認識してしまえばそのように決定づけられてしまう世界の中で、あの夜、障子の奥からのぞき込んだ火喰鳥は、一体『何』だったのか。
 雄司と火喰鳥との争いの末、雄司の悲鳴が火喰鳥の鳴き声に被さっていくのは何故か。
 ――腹が減ったら死ぬ、つまり、『食べなければ生き残れない』。だったら、食べるしかない。体が大きいから蒸し焼きにでもして。
 最後に、私はファッションが好きなので、一つの仮説を。
 自分がいる世界に満足している人間は、色の薄い/淡い服を身につけていて、自分がいる世界に抵抗がある人間は、色の濃い服を身につけているのではないか。
 それから夕里子の髪型。ハーフアップスタイルのときは、世界線に揺らぎが生まれている時のように思えてならない。
 個人的には、ラスト近く、赤いワンピースをまとった夕里子が、彼女の冷え冷えとした冷たい圧に非常にマッチしていて美しくて好きだ。あれは彼女の東京での(北斗と付き合っている頃の)出で立ちで、周囲に対し心を鎧っている証拠かなと思ったりする。そう考えると、ずいぶんと気の緩んだ(失礼)格好で再会した彼女に対し、北斗が述べた「相変わらずきれいだ」という褒め言葉、ちょっと意味が変わってきて、面白い。
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