「特殊設定ミステリと似て非なる現実崩壊ホラー」火喰鳥を、喰う 高森郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
特殊設定ミステリと似て非なる現実崩壊ホラー
いわゆる“特殊設定ミステリ”の小説を、少し前に読みあさった時期があった。世間的によく知られた同ジャンルの作品としては、今村昌弘原作で映画化された「屍人荘の殺人」、相沢沙呼原作でドラマ化された「霊媒探偵・城塚翡翠」など。ただ個人的にはまったのは、白井智之の設定があまりにも特殊過ぎて笑っちゃうほどの小説群。長編なら「人間の顔は食べづらい」「東京結合人間」、短編集なら「お前の彼女は二階で茹で死に」など、タイトルからすでに異常性がにじみ出ている印象を受けるが、しっかり謎解きで楽しませる推理小説として成立しているのがいい。
さて、原浩の原作を本木克英監督が映画化した「火喰鳥を、喰う」も、横溝正史ミステリ&ホラー大賞受賞作という情報から特殊設定ミステリに近いストーリーかなと予想したが、かなり違った。
具体的にどう違うのか。特殊設定ミステリは早い段階で物語世界の特殊なルールを提示し、そのうえで伏線とその回収などを続けることで、読者や観客が推理に参加できるように構成されている。
一方で本作は、世界の特殊なルールが提示されないまま奇妙なことや常識的にあり得ないことが続き、後半になってから謎解きとほぼ同時に特殊なルールが明かされる。しかもそのルールに相当するのが、(ネタバレにならないよう少しぼかして書くと)「個人の強い思い(執念)が現実を変える」というもので、それってほぼ何でもあり、ルール無用と同義じゃない?という話。
そんなわけで、ミステリ、つまり謎解き要素に期待しすぎると、なんかすっきりしない、後出しじゃんけんで負けたみたいで後味悪い、といった感想になるかも。でもまあ、あり得ないことが起きて現実が徐々に崩れていく展開が結構ぞわぞわ来るので、ライトなホラーとして楽しめたならそれもよいことだと思う。水上恒司と山下美月の演技やたたずまいのおかげで、暗い話の割に清涼感が残るのも評価されるべきポイントだろう。
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