「「夏の砂の上」←このタイトル天才すぎる」夏の砂の上 nnrさんの映画レビュー(感想・評価)
「夏の砂の上」←このタイトル天才すぎる
雨の降らない夏の砂のように乾いた人間模様が描かれる本作。
雨で我が子を亡くした主人公が、姪と雨の喜びを分かち合うことで希望が生まれる。
たった一滴でいいんですよ。心にたった一滴したたるだけでこんなにも潤う。
すべてが満たされるわけではないけれど、何かが劇的に変わるわけではないけれど、たった一滴でこんなにもマシになる。
冒頭とラストはほぼ同じシーンが繰り返されるが、印象は全く違う。すごい表現力。
序盤から、雨が降らないことによるのどの渇きや水のない生活への焦燥感と乾ききった人間模様を重ね、そして終盤にやっと雨が降る。
主人公にとって雨は小さい息子を亡くした後悔の象徴だが、その雨に喜びを感じることでカタルシスに繋がる。
重要なのは、どうやってカタルシスに繋がるかをぼかして観客にゆだねている点だ。雨の喜びを大げさに演出し、なぜこんなにも喜んでいるのかということをあえて言及していない。
息子の死を乗り越えたととらえる人もいれば、雨の喜びを分かち合い心を通じさせた友人(姪)ができたととらえる人もいるだろう。
それはどうとらえても観客にとって正解となり、観客が自分で気づくことが観客にとって最も説得力のある答えなのだ。
そして、きっとそれは”なんでもいい”のだと思う。なんでもいいから乾いた心に一滴でもしみこませることが重要だと説うている作品だと思う。
そこをぼかすのは「分かりにくい」と感じさせることもあるのですごく勇気のいることだと思うし、ぼかし方も素晴らしく絶妙だ。
邦画らしく、劇的でなくじんわりときいてくる作品だった。
個人的には静かで、かなり好みな作品だったけど、退屈だという人もいるだろう。
最後、指を切るシーンは必要だったのかね。あれいらなかったんじゃないの。
余談ですが、これを見に行ったとき、ちょうど劇場の空調が故障により機能が低下していて、少し汗ばみながらの観賞となった。作品の内容とマッチした環境で逆に良かった。