劇場公開日 2025年7月4日

「坂の街、長崎の日常に人生の縮図が見える」夏の砂の上 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0坂の街、長崎の日常に人生の縮図が見える

2025年7月20日
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夏の長崎にある坂道を、買い物袋を持った男がゆるゆると家路を急いでいる。その男、治は長く務めていた造船所が倒産後も、定職のないまま日々、そんな風にゆるゆると過ごしている。しかし、彼の周辺は慌ただしい。突然訪ねてきた妹の佐和子は17歳の娘、優子を治に預けたまま、男が待つ博多に行ってしまうし、優子はなかなか扱い辛い娘だし、別れた元妻、恵子の事情もなかなか複雑だし。。。

以上、大まかな物語の間には、日本の造船事業の行き詰まりや、目的をなくした老後の殺伐や、そして、原爆の記憶が垣間見えてくる。閉塞的な日常を描いているようでいて、実は構造はけっこう複雑で、じっくりと向き合う価値がある味わい深い作品なのである。

そこから、坂の多い長崎を人生に例えて考えるというアイディアが湧いてくる人もいるだろう。筆者は、留まる者(治)と出ていく者(その他)の対比から、人生という旅の縮図を見た気がした。恐らくこの日本にも多数いるはずの出ていく者たちに届けたい、留まる者の声にならない叫びが聞こえてきそうだ。

清藤秀人