「暑い、もがき苦しむ!そこに己のドン底を知る。 それでも生きてゆけ~!」夏の砂の上 The silk skyさんの映画レビュー(感想・評価)
暑い、もがき苦しむ!そこに己のドン底を知る。 それでも生きてゆけ~!
今日も世間は暑かった。何もかも・・・
ジッとしていても始まらない。海へ行こう!砂浜だ!
浜辺は風があって涼しいか、向こうには海。波が押し寄せている幾度となく。
そこまで行くのに 砂の上を素足で歩くとするが・・・
灼熱に焼かれた砂は もの凄く熱い! まるで地獄の溶岩の様ではないか。
しかも素足が砂に埋まって上手く歩けない・・・向こうにはコレを冷やす海原があるって言うのに・・・。 雨さえ降れば少しは歩き安くなるかもだが。
私はこの感覚、これを上手く表現し流れ展開を組んでいるように思えた。
今日は「夏の砂の上」の鑑賞です。
全く期待はしておりませんでした。
オダギリジョーさんが共同プロデューサーなのは エンディング見て知りました。元々は第50回(1998年)読売文学賞戯曲・シナリオ部門を受賞した
松田正隆さんの作品なんですね。
この深みのある男の生き方、荒々しさ。そしてもがき苦しむ姿。
愛さえ届かない、いや 離れて行ってしまう程の心の奥底。
夫婦の唯一の光であった一人息子を喪った哀しみ。
手に付いた職までも失い 希望すら無い 人生のどん底感。
とっても 共感いたしましたわ、 これ。
寡黙な男の歩んだ一時を上手く描いた作品でしたです。
松たか子さんが妻役で出ていて、同じように破局を迎えた夫婦の映画”ファーストキス 1ST KISS” 見て イエ-イ!! などと感じていた人には全くウケない作品と思います。よって評価は低めに成るかもですが。致し方ない。
なぜ そう感じるのか。
この作品を河原の石に例えると、 初めて獲る感覚の作品って言うのは 丁度上流の山の頂から切り立った岩山を割った様な 荒々しい岩なんです。感覚的に石じゃ無いんですよ。
だから手に取っても ”痛い” そう言う物と思います。
作品も同じで 最初に位置する物は 不細工で上手く心に持てなくて 分からなくて、そして 痛いんです。 だから評価が上がらない。
川を転げて落ちて何度もぶつかって 流れて行くと。
つまり何度も上演上映されて 真似されて、引用されて行くと
オリジナルも まろやかになると思うのですよ。
そして 岩から角が取れた河原の石になる。
そうなってくると 誰でも受け入れられる 評価の高い作品になる。
源流に位置する作品が 本作なんだと感じました。
だから 流れ凄く荒くて、そして新鮮。そう思います。
原作:松田正隆氏
監督・脚本:玉田真也氏
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小浦治(夫 元造船所で働く)役:オダギリジョ-さん
小浦恵子(妻 やがて離婚)役:松たか子さん
川上優子(治の姪)役:高石あかりさん
川上阿佐子(治の妹)役:満島ひかりさん
立山孝太朗(姪の彼氏)役:高橋文哉さん
陣野航平(造船所の同僚 妻の再婚相手)役:森山直太朗さん
陣野茂子(陣野の元妻)役:篠原ゆき子さん
持田隆信(造船所の同僚 途中で逝去)役:光石研さん
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(感じたところ)
・私も昔にいった事あるけども、長崎の坂の街並と、真夏の景色は 良く描けていると感じました。
また九州長崎弁を流ちょうに話しているのが良かった。
やっぱり言葉は温かいね。
光石研さんは確か九州男児。さすがセリフは聞いててナチュラルそのもの。
とっても よかばい。 よかよか。
・優子(高石さん)がアルバイト出来る高校生くらいの年齢には流石に見えない。
だが とっても見つめる目線が良くて 味があると思う。
姪としての存在感。治とのよく似た境遇。
この人のもつ 独特な雰囲気が全体的に出ているね。そこがいいかな。
・存在感がいまいちな立山孝太朗。優子の彼氏には不向きな存在。何しに出てきているのか いい人ぶりだけ? 別れ際には出てこないし。
・深夜に3人が僅かなビ-ル1缶をコップに入れて飲んで寝る。
コップに息を吹いて キレイにしたつもりで 注ぐビ-ル。
分かるわ~ しかも この酔っ払い方。
意味ある 喧嘩。 そして仲直り。
元仲の良い職場同僚感を実に上手く表していると思うね。
・職を失った元同僚が次々と違う職に就いていって 焦る治。
この気持ちも分かる。
自分の行く道が見えない状態 不安がよく出てる。
ハロ-ワ-クの応対も そう。 そうやねん。
なんか適当に職を紹介されるのよね。
そして 不安乍らに職につくが、結局 誰よりも似合ってる本人。
どっからどう見ても お店の大将みたいよね。その風貌 いいわ。
・出て行った妻とやがて離婚なのだが。 時々物を取りに来ては帰って来る妻。住まいは思ってた以上にスグ近くで。 実際良くある話ね。
場所を何となく話す陣野。どうやらお前が再婚相手なのかと うすうす分かる。
それを 黙って許す 治。 同僚の絆は深いと感じたわ。
頭 額を地面一杯まで擦りつけて 土下座して精一杯謝る陣野。この姿・・・。
ここも 男として分かるし、 恵子への愛を推し量るのである。
だから 去って行く二人を許すのだろうと思う。
・恵子(松たか子さん)と治との仲。
息子が5歳の時、大雨洪水で水路にはまって亡くなる。この現実に二人が向き合えてなく。乗り越える事が出来ていなくて その思いに 見ていて私は淋しかった。
恵子が ”仏壇にご飯も線香もあげられてないじゃない!” 言葉を強く言う所 とってもジ-ンと来ましたわ。
恵子は 亡くなった子供だけ気にかかるの?
同時に職も失った夫は? そのままでいいの?
ここの思いが、夫婦の在り方として 問い正したい所。
地味だけど もの凄く良く表現出来ていると思う場面だったと感じました。
・妻が出て行って、やがて夏の空に 激しく雨が降る。心に淀んだ想いをどっと洗い流していく。(ココの雨なんか貯めて吞む場面は不要だったね。)
夫婦の絆と、決して忘れてはいけない 子供への記憶を治は失っていく~。
それは 切ってしまう指に例えられていて、巻かれた包帯が痛々しいが
残った親指と小指が やがて治の心を元に戻して行くだろう。そう思う。
人生のドン底まで知って味わった男は それでも夏の陽の下を
明日に向かって 生きてゆくのだろう。 それでいいと思う。
中々 味わい深い作品でした。
ご興味 御座います方は
是非 劇場へどうぞ!!

