「憧れと言語化、その多元的な現れについて」DREAMS 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)
憧れと言語化、その多元的な現れについて
2024年。ダーグ・ヨハン・ハウゲルード監督。ベルリン映画祭で金熊賞を獲得したというノルウェー映画。思春期の女子生徒がこれからの人生への形のない「憧れ」を抱いている。小説によってそれに形を与えられたような気がした主人公は日記をつけ始めるが、そこに書かれたのは赴任してきた女性教師への想いだった、その内容に詩人の祖母とフェミニストの母はそれぞれ衝撃を受け、わが身を振り返っていく、、、という話。
すばらしい成長映画(「成長」への批判も含む)。冒頭、主人公の日記の記述を追いかける形で出来事がつづき、本人のナレーションが入っているところはまどろっこしいが、やがてその割合が少なくなり、本人がナレーションではなく現実にしゃべりはじめると、つまり、書き終わった日記をめぐる現実場面になると、途端におもしろくなる。もやもやしたものに形が与えらえることで明確になる側面もあれば、社会や他者に影響を与える側面もある。言語化には、希望にあふれた主観的な意味もあれば、他者を決めつける暴力的な意味もある。
総じて光りのあて方が上手で画面が美しい。劇中でも主人公の髪がきれいといわれているが、夜のベンチで後ろから光を浴びて考えごとをしているときの主人公の髪などとてもきれい。一風変わった野外の階段や高級マンション内の階段など、高低差と心理的な関係の描き方もすばらしい。「憧れ」がテーマなので、当然、高低差があるわけだ。
周囲の大人たちが主人公に巻き込まれることでじぶんたちのもやもやに気づいていくのもすばらしい。あとから三部作の二作目「LOVE」を見たら、本作の最後にちょっと顔を出す印象的な精神科医が、あちらでは大きな役割を果たしていた。精神分析の役割と限界について(特にフロイトの理論的側面の)、意識的な監督なんだなあ。
*レビューを書けるように配慮していただいた運営さん、ありがとうございます。
