DREAMSのレビュー・感想・評価
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誰もが抱く恋心を言葉で、声で、映像で表現してくれる
この映画は3部作らしく、前作、前々作があるそうで「LOVE」「SEX」という根源的なテーマをストレートにタイトルにしていて「DREAM」はどう料理するのかなと思いつつ、それくらいが前情報で、ベルリン映画祭で評価されたということが動機となって見てきました。ベルリン映画祭で受賞する作品は私にとっては鑑賞難易度が高く、きちんと理解できていない気がして楽しめるか不安だったのですがこの映画は見やすく共感できるところも多くて気に入りました。恋する人の心の軌跡が豊かな言葉で綴られていて「そういう気持ちあるよね」と思わせてくれます。セリフが多いのでどうしても字を追ってしまうので文字で理解してしまうのがちょっと残念なところでもっと映像から得られるメッセージを受け取りたかった。映画紹介コーナーでは「同性愛」という文字が目を引きがちですが純粋な恋と愛を伝える純文学的かつシンプルなストーリーと思いました。主人公の少女の赤裸々な気持ちに当初は戸惑い、批判的な母親、祖母も次第に少女のピュアな気持ちと誰もが昔経験した恋心に感化されてまた一人の独立した人間として扱うようになり、それぞれがあらためて自分の人生をとらえなおし前向きな気持ちになっているところも見てる人にいい影響を与えてくれます。
今さら「恋」「愛」することが果たしてできるのかわかりませんができるといいなと思わせてくれました。
彼氏くん、お尻見せたがってる場合じゃないよ
最初ガールズラブを描いた作品なのかと思い込んでました。先生の住まいまで歩く夜の街並みの美しさとか、ニットセーターを交換して試着するシーンとか、初恋の高揚感いいなあと思いながら観てたんですが、ヨハンネの主観で描かれていたんですよね。すっかり幻惑されてしまっていました。
中盤はおばあちゃんやお母さんの倫理観、人生観に発展していって、映画自体がどこへ向かうのか、ちょっとわからなくなりましたが、構成としてはなかなか面白い。
あんなにキラキラ輝いていた先生もお母さんとの対話では、意外と現実的な方だったり。
そしてエピローグ、ロメール風のシニカルな幕切れに思わずニンマリしてしまいました。ヨハンネの見た目もキャラも随分変わってましたね。
勝手に好きになり、勝手にふられたと思い、豊かな文才でその出来事を赤裸々に綴った手記を作り出版し、大人をリスクにさらす女子高校生
教師と女子高校生の間の同性愛。女子高校生が出来事を赤裸々に綴った手記もあり、教師は保護者から訴えられてもおかしくない。しかし文才優れる女子高校生の手記から想像させられ、それを読んだ人が生々しく追体験させられる出来事と、実際の出来事は異なるようだ。女子高校生は手記に嘘を記載したわけではなく、彼女の視点からみた出来事を忠実に記録したにすぎない。物語は訴訟といったこととは全く異なる方に進むのだが、訴えられなかった教師はラッキーだった。悪気はないとは言っても、そんな一方的な手記を残されたのではたまったものではない。まして出版するなんて。異性間はもちろんのこと、同性間であっても、付き合い方には注意が必要だと思い知った。なんかしんどいけど。たぶんこの映画の主題はこういうことではないのだろうが、私はそんなことを考えさせられた。
かく語りき
LOVEに続いて連チャンで観ました。腰が痛いです。このシリーズの3部作セットのBDが販売されたら絶対買ってしまいます。Tシャツも作って欲しい。まだLOVE、DREAMの2作しか観られてませんが。今作では祖母、母、娘の三世代それぞれの立場から、パワーフレーズが溢れんばかりに出てきました。文豪のブロンテ姉妹が会話に出てくるシーンはとても印象的でした。文学と映画の融合。映像は美しいですが、娘の独白で話が進むので、字幕を追うのが精一杯でわたしはやや読書寄りバランスでの鑑賞でした。ノルウェー語が解ればもっと映像の効果を実感できたのかと思います。わたしが不足しているだけで映画自体はもちろん素晴らしいと思います!
映画館に置いてある無料のリーフレットの監督のコメント、納得です。ぜひお手に取ってください。
ヨハンネが紡ぐ言葉に絡められて見た風景
とても面白かった。「面白かった」はあまりそぐわない言葉かも知れないけれど、会話や表情を心から楽しめて共感と発見があった。
17歳の高校生ヨハンネが胸をときめかせ、切ない気持ちと苦しい気持ちで人を恋する思いに自然に同期してしまった。彼女の手記を読んだヨハンネの祖母も母も、それぞれに立場が異なり感想も異なるが、自分の今までの恋愛や人生を振り返ることになる。とても個人的で内面的な文章でも読者が自分のこととして読むことができるとき、その文章は共有され共感され読み継がれる力を持つようになるんだろう。自分が中学・高校生の頃の読書体験を強く思い出した。それほどヨハンネのモノローグと文章には力があった。
ヨハンネの心を捉えたフランス語教師のヨハンナの最初の登場は、映画の中でもキラキラと光り輝き明るく、生徒みんなの心を掴んだように見えた。オープンで笑顔が可愛い大人。一目見て彼女に惹かれるヨハンネの気持ちに共感できた。そのヨハンナの輝きは客観的なものではなかったかも知れないと、後に私達は気づかされる;彼女はヨハンネの気持ちに気づいていないし(或いはそうでないことにしている)、第三者から見れば物凄い魅力があるというより、普通の一人の大人だった。恋する思いは自分自身の頭と心の中に突然現れ自分が育てていくもので、相手の資質や外見はそれ程関係ないことに今更ながら私達は気づく。個人的にも昔を振り返れば、そういうものだったと思い出す。
モノローグ含めて一番饒舌なのは主人公のヨハンネ、そして彼女の祖母と母。この監督の映画(3本しかまだ見ていないけれど)は会話が中心でその内容がとても面白い。立場によって、とりわけ時間をおくことで意見や思いは異なり変化する。ヨハンネが恋するヨハンナにはセリフが殆ど与えられていない。観客はヨハンネの心のフィルターを通して「キラキラした光に包まれた美しく聡明で優しいヨハンナ」を共有させてもらっていた。私達はヨハンネに、いや、脚本と監督の魔法にかけられていた。
家の中の暖かさ、居心地の良さ、ヨハンネのグリーンのマフラー、暖かそうな靴下、室内の観葉植物、編み物に全身くるまれたよう。暗くなってからもお喋りしながら森の中の散歩を続ける。高い高いヤコブの梯子(「SEX」でも思ったが、北欧でのキリスト教の位置付けにとても関心をもった)を登るおばあちゃん。その映像は夢のように新鮮だった。ヨハンネの祖母(詩人だ!)による、イエス・キリストはスウェーデン人の男で、という説にとても笑えた。
夏になってヨハンネはずいぶんと大人になり「自分のUSB」から解放される。いやな奴!ライバル!と思っていた女性が、今度はヨハンネにとって快く「会話」する相手になるんだろうという未来が見えた。女性同士が仲良くなって連帯すると社会が変わる、それを一番恐れているのは大人の男性だとチラリと唐突に思った。
憧れと言語化、その多元的な現れについて
2024年。ダーグ・ヨハン・ハウゲルード監督。ベルリン映画祭で金熊賞を獲得したというノルウェー映画。思春期の女子生徒がこれからの人生への形のない「憧れ」を抱いている。小説によってそれに形を与えられたような気がした主人公は日記をつけ始めるが、そこに書かれたのは赴任してきた女性教師への想いだった、その内容に詩人の祖母とフェミニストの母はそれぞれ衝撃を受け、わが身を振り返っていく、、、という話。
すばらしい成長映画(「成長」への批判も含む)。冒頭、主人公の日記の記述を追いかける形で出来事がつづき、本人のナレーションが入っているところはまどろっこしいが、やがてその割合が少なくなり、本人がナレーションではなく現実にしゃべりはじめると、つまり、書き終わった日記をめぐる現実場面になると、途端におもしろくなる。もやもやしたものに形が与えらえることで明確になる側面もあれば、社会や他者に影響を与える側面もある。言語化には、希望にあふれた主観的な意味もあれば、他者を決めつける暴力的な意味もある。
総じて光りのあて方が上手で画面が美しい。劇中でも主人公の髪がきれいといわれているが、夜のベンチで後ろから光を浴びて考えごとをしているときの主人公の髪などとてもきれい。一風変わった野外の階段や高級マンション内の階段など、高低差と心理的な関係の描き方もすばらしい。「憧れ」がテーマなので、当然、高低差があるわけだ。
周囲の大人たちが主人公に巻き込まれることでじぶんたちのもやもやに気づいていくのもすばらしい。あとから三部作の二作目「LOVE」を見たら、本作の最後にちょっと顔を出す印象的な精神科医が、あちらでは大きな役割を果たしていた。精神分析の役割と限界について(特にフロイトの理論的側面の)、意識的な監督なんだなあ。
*レビューを書けるように配慮していただいた運営さん、ありがとうございます。
娘・母・祖母ーー三世代の女性から見えてくる自由とジェンダーの試行錯誤
3部作の2「LOVE」、1「SEX」と続けて鑑賞して、両作とも刺激的で面白かった。一番受賞歴的に評価の高い3「DREAM」も観なければと思って映画.comを見たら、明日までの予定しか掲載されていなかったので今日慌てて観に行ったのだけれど、明日までではなく、上映時間が変わるだけのようだ。平日で空いていたけれど、本作も面白く刺激的でした。
全2作が、長い対話をつなぐ形で進行していったのに比較して、本作は主人公の17歳の女子高生のモノローグを主に前半は進行していく。後半から、前2作同様の対話の面白さが加わっていく。前の2作では、民主主義の成熟度、自由度などで世界1位だというノルウェー市民が、多様性と自由を大事にしつつ合意形成する対話力を見せつけるようなもので、日本人がここまでしんどい対話ができるかな、僕には無理だなと思いつつ、とても刺激を受けるものだった。
本作では、主人公とその母、祖母の3世代の対比で、それぞれの世代が獲得してきたジェンダー感や自由主義的価値観のズレが描かれて、民主主義の成熟というのが、この3世代の努力と試行錯誤によって獲得されたものだというものが見えてくる。
言葉の使い方が正しいかどうか自信がないのだけれど、詩人である祖母はウーマンリブの闘志のようでもあり、女性の権利を勝ち取ってきたという自負を持っている。母親は、その獲得した自由を自己表現に変えて、自分らしさを追求してきた世代のようだ。
この二人が、母親が10歳の時に祖母と2人で観に行ったという映画「フラッシュダンス」をめぐって言い合いをする場面が面白かった。僕の高校時代に大ヒットして、サントラの最後のマイケル・センベロ「マニアック」はこんなかっこいい曲があるのかと興奮した映画だ(ただ映画はいまだに未見。ただ当時、映画雑誌で写真とストーリーが紹介されていて、観た気になっている)。
祖母からすると、私たちが獲得した女性の権利や自由を、母親たちの世代がダメにしてしまった。母からすると、主演のジェニファー・ビールスがダンスで自分を自由に表現する姿が眩しかっただけなのに…というようなやりとりである。ここにもその世代による自由やジェンダー感の違いが見えてくる。
そして、映画の主人公である17歳の少女ヨハンネは、人として魅力があるかどうかだけなんじゃないというような性別など超越した視点を獲得している感じである。最初は母親や祖母から心配される主人公に、徐々に母と祖母が嫉妬を感じているところも面白い。私もヨハンネのように生きたかった、でももう歳をとってしまった…と後悔していく。
ハウゲルード監督の3作を観ていると、男女の恋愛が何か古くさく、固定観念に縛られた不自由なものに感じるくらいで、自由度世界一の国はこういう感じなのか、成熟した民主主義世界とはこうなのかと、ため息と共に感心させられてしまう。物語はフィクションなのだが、おそらく監督の作風から、現実世界の価値観をリアルに取り込んで、巧みに脚本・構成に持ち込んでいるはずだと思う。
同時に、理性と合理性で理想を求めて作り上げてきた価値観だけに、まだまだ未消化な部分があって、それぞれが手探りで自分の価値観を形成している様子も見えてくる。
本作だと、主人公の母親が、娘と女性教師との付き合い知って、最初は教師の虐待ではないかと疑い、その後にその考えを正反対に変えるところなど、何が個人の自由の尊重で何がハラスメントなのか、判断軸を持つことの難しさがある。母親と教師との対話の場面では、教師の口から、少女の側にハラスメント的な面があったのではないかというようなことも語られて、多様性と個人の自由の尊重の中で、人と人とがつながることの難しさも見えてくる感じがした。
また、この3作には共通して同じ精神分析医のビョルンが登場する。自由と個性が尊重すれば、価値観や判断軸も一人一人が自分の責任で作るものとなり、同時に他者の自由も尊重するわけだから、精神的にしんどいものだということも示唆しているように感じた。
今、世界は保守的価値観からの見直しというような動きが出ているけれど、それでもそれは個人の自由と尊厳の尊重というリベラリズムを共有した上での動きなわけで、この3作品で描かれたノルウェーの成熟した民主主義の国で生きるということは、日本の未来像でもあるのだと思う。
成熟した民主主義を生きるとは何か、そのリアルを垣間見せてくれる刺激的で学びが多い、そして同時に楽しい三部作だった
2025/9/9
秀逸な脚本だったと思いました。
ヨハンネ、母、祖母の関係性が素晴らしく家族としてはもちろん、人としての敬意が関係性の根底に伺えました。作品を覆う明るさ温かみはそういうところから来ていたのでしょうか。
初恋の赤裸々な手記に困惑し、冷静になったうえで手記を出版したいと思い始めている祖母と母、フラッシュダンスは下賤な映画だなどの言い争いとか可笑しくて笑いましたが、つまり自らの心と生活を揺さぶる文章を書いた娘の才能を知ることになった。
子供だと思っていたのが不意に。
娘の主観とヨハンナの主観の現実的な食い違いも初恋の醍醐味が詰まっていて、人を好きになるエネルギーが爛々としていました。
あと俳優陣の身体性が良いなとずっと感じてました。
ラストシーンでこの娘はきっと大丈夫という気がしましたが「夜明けのすべて」の時に感じたきっと大丈夫と似ていた気がします。
とても素晴らしかったです。
ありがとうございました!
恋に恋して
少し哲学的で語りが盛り沢山だけど─
もはやフェミな映画は世にはびこり、なんか特別感のある映画でたくさん扱うことによって逆に差別感が際立ってきている気もするのですが、これもまさにそのうちの一つなんのかなぁなんて見ていたのですが、一味違っていました。
ほとんど女性しか出てこなくて、そして見事にその関係のお話になっていくのですが、結構差別的だったり偏見をもたれるような視点をごく自然に描ききっていて、しっかりと現実感を持っていたのでなんか安心して楽しめたし、内容もかなり面白かったし笑っちゃいました。それでいて純な性の苦悩や芽生えなんかをちゃんと描いていて、予想よりずっと良かったです。
台詞とか語りがめっちゃ多かったし、正直きっついなーなんて思ったんですが・・・。語られることも詩的で少し哲学っぽく、本とかが題材となってきて、2時間持つのかコレ・・・と不安だったのですが、意外と軽やかだったし、映像もしっかりとしたロケーションが下地となっていた印象で、絵と音と音楽とスクリプトが見事に融合していたような─。最後なんかめちゃくちゃ良くて、あれだけでこの映画好きと思っちゃいました。
ひょっとして本当の共感者を得たかも知れないエンディングがいい
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