「2つのシリーズを受け継ぐ正統な続編にして新シリーズ」ベスト・キッド レジェンズ 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 2つのシリーズを受け継ぐ正統な続編にして新シリーズ

2025年9月2日
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鑑賞方法:映画館

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【イントロダクション】
1984年のオリジナル版『ベスト・キッド(カラテ・キッド)』と、2010年のリメイク版『カラテ・キッド(別名カンフー・キッド)』の世界観が合流し、新たな伝説を生む。
主人公リー・フォン役を熾烈なオーディションを勝ち抜いて選ばれた新星ベン・ウォンが熱演。彼を鍛える2人の師匠には、リメイク版で師匠を務めたジャッキー・チェン、そして、オリジナル版でミスター・ミヤギから空手を教わったダニエル役のラルフ・マッチオがカムバック。
監督にTVシリーズ『ハロー、トゥモロー!』(2023)のジョナサン・エントウィッスル。脚本に『ピーターラビット』(2018)のロブ・ライバー。

【ストーリー】
北京でハン師匠(ジャッキー・チェン)のカンフー道場に通っている高校生リー・フォン(ベン・ウォン)は、兄を武道大会の帰り道の襲撃事件で失っており、母親でハン師匠の姪でもあるドクター・フォン(ミンナ・ウェン)から戦う事を厳しく禁じられ、ニューヨークへと引っ越す事になる。

リーは新しい環境に戸惑う中、近所の個人経営のピザ屋の娘ミア(セイディ・スタンリー)と親しくなり、彼女の父親で元ボクサーのヴィクター(ジョシュア・ジャクソン)とも親しくなっていく。

ある日、リーはミアと共にバイクでツーリングに出掛けた帰り道、地下鉄の車内で街の空手道場“破壊道場(デモリッション道場)”に通い、ニューヨークを舞台にした空手大会王者のコナー(アラミス・ナイト)の怒りを買い、暴力を受けて右目を負傷してしまう。コナーはミアのかつての恋人であり、ミアへの未練からリーを敵対視していた。
後日、リーは学校でコナーからの挑発を受け、封じていたカンフーで決闘する事になる。亡き兄の得意技であった“ドラゴン・キック”をお見舞いしようとするも、カウンターを受けて敗れてしまう。

コナーとの喧嘩に敗れた夜、リーはヴィクターが借金の返済の取り立てとしてデモリッション道場のオーナーの手先達から暴行を受けそうになっている所を助ける。カンフーの独特な身のこなしを目撃したヴィクターは、リーにカンフーを教えてほしいと頼む。ヴィクターはかつてはボクサーとして名を馳せていたが、ミアの誕生によって舞台から退いていた。しかし、店の売り上げでは借金の返済は難しく、ボクシングの大会で賞金を手に入れて返済しようと考えていたのだ。リーはヴィクターにカンフーを教え、彼は次第にかつての輝きを取り戻していく。

遂にヴィクターの復帰戦。リーからの教えを胸に次第に勝負を有利に進めていったヴィクターだったが、相手選手に賭けていたデモリッション道場のオーナーは、選手に反則技であるエルボーを使わせ強引に勝利させる。負傷したヴィクターは病院に運び込まれ、リーは兄の時と同じく恐怖で足がすくんでしまう。

無気力な生活へ向かいつつあるリーの元に、連絡がつかない事を不審に思ったハン師匠が訪ねてくる。事情を知ったハンは、リーに武闘大会への出場を命じて、彼を鍛える事にする。ハンは旧友であるミスター・ミヤギの道場を訪れ、彼の弟子であるダニエル・ラルーソ(ラルフ・マッチオ)にも、リーの師匠として“ミヤギ空手”を教えてほしいと懇願する。

リーは、ハン師匠とラルーソ師匠、カンフーと空手、2つの流派を受け継ぎ、来たる武闘大会へ向けた修行を開始する。

【感想】
私はオリジナル版の『1』とリメイク版を過去に鑑賞したのみで、ドラマシリーズの『コブラ会』は未鑑賞。
オリジナル版とリメイク版が合流するという点から、個人的にはクロスオーバーによる番外編的な立ち位置の作品を想像して鑑賞した。実際には、本作から新シリーズを始動させる事も可能な作りであり、今後の動向に注目したくなった。

ストーリーはベタ中のベタ、王道中の王道展開だが、このシリーズに特段奇を衒った展開を期待している人は少ないのではないだろうか。なので、本作の展開はエンタメとして求められてるものをお出ししたという時点で十分及第点と言える。ミヤギ先生とハン師匠が旧知の仲という設定は想像通りだし、リーが兄の死を自身の戦いを経て克服する展開も予想通り。
唯一意外だったのは、リーがヴィクターのコーチになるという展開だ。これまでのシリーズの主人公とは違い、リーは物語開始時点で既にカンフー道場に属しており、ハンの言うように「基礎は出来ている」状態なのだ。だから、2人の師匠から教えを受けると共に、彼もまた誰かの師匠となれるわけだ。個人的には、リーとヴィクターのトレーニング風景の方が、リー自身の修行より面白かったかもしれない。

肝心のリーの修行については、互いに我の強いカンフーと空手の師匠に板挟みにされて振り回される様子がコミカルに描かれていて楽しくはあったのだが、もう少しトーナメントを勝ち上がっていく中でも反映されるやり取りが欲しかった。最終決戦の決め手となる「兄の得意技だった“ドラゴン・キック”を囮に、足技でカウンターを狙う相手の下を潜り抜けて一撃を見舞う」という作戦の為に、地下鉄のバーを潜る練習をする風景が面白かっただけに、他にもユニークな修行風景が見たかったのが本音だ。

とはいえ、尺の長さはベストだったように思う。オリジナル版は127分、リメイク版に至っては140分と、内容に対して長尺であると感じていたので、本作の94分というコンパクトさは丁度良い。先述した不満点も、「もっと2人の師匠との絡みを見たかった」「兄や母との親子関係も掘り下げてほしかった」といった、「もっと見たかった」という感情を抱かせるくらいの塩梅で丁度良かったのかもしれないとも思う。

戦いを通じて描かれるのは、「過去のトラウマの克服」と「武闘家として精神的に成長する」姿だ。特に、決勝戦でリーが見事コナーを破った後、敗北を受け入れられず暴力に身を任せて迫って来るコナーを、カンフーの動きで鮮やかにいなしてトドメ直前まで持っていった際、リーが振り上げた拳を相手ではなく地面に叩き込む姿は印象的。予想出来るケジメの付け方だが、暴力性を頼りに向かって来る相手に、あくまで武闘家として武道の精神で応え、手を差し伸べる姿はアツい。コナーも悔しさを滲ませつつ、リーの礼に対して自らも礼をして去っていく姿は、彼をデモリッション道場の単なる駒で終わらせない良さがあった。

ハンとダニエルの我の強さは見ていて楽しかった。大会で見事な技を披露するリーを前に、互いに「私が教えた!」と譲らない“師匠バカ”っぷりは笑える。だからこそ、もし次回作があるのなら、是非ともこの2人の対決(模擬戦でもウォーミングアップでも何でもいい)を見てみたくなる。ジャッキー・チェンの年齢を考えると難しくはあるのだが、互いに「自分の流派が最強!」と自信を持つ者同士、何かしらの形でそれぞれの良さと強みをもっと視覚的に見せた方が盛り上がると思うのだ。

リー役のベン・ウォンの熱演が素晴らしい。メインとなるカンフーと空手の技は勿論、ヴィクターを助ける際の暴漢との戦い含め、流石オーディションを勝ち抜いて選ばれただけあって「動ける」役者なのが良い。日常パートのコミカルな演技も良く、本作をキッカケに今後活躍してくれる事を願うばかりだ。
ハンとダニエルの無茶なしごきに対する「ブルックリンなら暴行罪だよ」という返しも面白かった。

脇役ながら良い仕事をしていたのが、リーの家庭教師アランを演じたワイアット・オレフだ。リーの大学進学に対して、数学の出来に厳しい評価を下しつつも、彼の恋路は全力でサポートする姿が見ていて楽しかった。続編が製作される場合は、是非とも彼にも続投してほしい。

【総評】
人気シリーズの最新作として、大味ながらも観客の求めるものを的確にお出しした作品だったと言える。あまり大きな期待を寄せず、軽い気持ちで見るポップコーン・ムービーとしては十分楽しめる作品だった。

続編の実現には、製作費4,500万ドルの黒字回収がマストだろうが、既に製作費分は回収している様子で、ライバル作に押されながら厳しいデビューを飾った本国をはじめ、最終的な世界興収でどこまで数字を積み上げる事が出来るか。

緋里阿 純
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