「良くできたエンターテイメント作品」Mr.ノボカイン HGPomeraさんの映画レビュー(感想・評価)
良くできたエンターテイメント作品
面白い映画でした。
鑑賞する前は、そのテーマと告知映像を見た個人的な先入観として、「結構グロい表現満載かな?」……などと想像したり、着眼点は面白いが単調な感じかも……などとも思ったりしましたが、フタを開ければ、よくできたエンターテイメントと感心しました。
単純に面白いだけでなく、物語の起承転結やワクワクさせるドンデン返し、個々のキャラクターの存在感など、B級映画かもしれないと邪推した想像を、開演10分後にはひっくり返してくれて、その後も退屈感なく最後は微笑みを浮かべながら観終われた作品でした。
まず導入。
主人公の特徴「無痛」を無意味にいきなり大げさに表現しなかったのは良かった。冒頭すぐに単調なイメージが埋め込まれ、その後の展開を期待しない心持ちになってしまうので。
先天的な病(無痛の事)があるために内気で人と距離をもうける人物像と、良い人の1面を見せてくれた事で気持ちよくスタートし、いざテーマの「無痛」を映像化したタイミングも自然であまり大げさではなく、そのテーマを早々にシェリーに打ち明け、無意味に謎めかして引きずらなかった点と、シェリーに勧められてパイを食べたときの主人公の壮大な感動感が、心地よかった。
しかしながら、主人公の無痛の打ち明けに対し、シェリーがパイをグイグイ勧める感じが、身勝手で思いやりがなく、一瞬嫌な感じがしたが、それもまた伏線として何としてもお近づきになりたいという意味があった事にも感心した。
そして銀行強盗。
支店長が意地でも譲らなかったシーンは、想像を裏切ってくれました。
それは、端役の人物像を大事にしているような描写で、端役であってもその人物像をないがしろにしていないと思え、好印象を抱いた大きな要因の1つです。
以下、端役のそれぞれの良さを伝えたい。
①銀行に差し押さえられた老人
起句で、頑張ってきた背景と妻を心から愛していた心を充分に演じてくれて、早々に感情移入させられた。しかも、主人公のその後の行動原理の一端を、担っている事の表現も盛り込んでいたから、なおさら「端役」なのに存在感が増した。
②支店長
冒頭、あまり真面目そうでない管理職かと思ったが、殴られても最後の最後まで屈しなかった姿勢は、一見常識的には愚かであるかもしれないが、人生終盤(年齢的に)のその心に、絶対に悪には屈しないで人生を終える、「人生の終わりの懺悔、善い行い」を行使した姿に見え、感情移入や考察ができた。
③主人公に「馬鹿なことはやめろ」と静止した撃たれた警官
主人公がパトカーと拳銃を強奪して追跡しようとして警官を見つめたとき、その気持を警官として瞬時に理解し、静止した表現は、端役にあるまじき存在感を感じた。
その思いは、単純に強盗の仲間かもしれないという思いかもしれない。もしくは主人公の助けたがっている必死な思いに、連れ去られた人質が危険に陥ることを職業柄早々に理解して、気持ちは分かるが早まるなとの思いか。
いずれにせよ普通の端役だったら、ただうずくまって痛がってるか、ただ待てという言葉のみだと思うのだが、この警官は存在感ありすぎて感情移入ができた。
④兄弟強盗
基本的には悪だが、悪も人間。強盗殺人、しかも警官殺しで捕まれば極刑確定の状況でも、すべてのリスクを無視して行動させた弟に対する心配と情と復讐行動は、人間味があり、また物語を上手くつなぐ流れや主人公の「無痛」を表現するにしても良い流れだった。
以上のように、端役にここまで存在感を与えている作品は、珍しいと思いました。
また、当然主人公と主要人物にも個々の人間味や生活などを、わずかな映像の中で表現してくれたため、制作陣の作品に対する心持ちに称賛を感じた。
またエンターテイメントとしても、盛り上げやドンデン返しを非常に上手く映像化しており、最後の最後まで飽きず、しかも気持ちよくエンドロールを観れました。
非常によくできたエンターテイメントと申したように、無駄な演出が無く、単調な展開がほぼないため、最後まで楽しめた本当によくできた作品だと称賛します。
……私が鑑賞した時、観客4人。あまり評判が良くない?のかもしれませんが、映画好きなら是非観てほしいなと思えた、良い出来の作品でした。