「観ているこちらも、ストレスという「痛みを感じず」観られる1作」Mr.ノボカイン 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
観ているこちらも、ストレスという「痛みを感じず」観られる1作
《ADMIX》にて鑑賞。
【イントロダクション】
先天的な疾患により痛みを感じない男、通称“ノボカイン(局部麻酔薬)”が、攫われた恋人を救出する為奔走するアクション・コメディ。
監督はダン・バーク、ロバート・オーセン。脚本はラース・ジェイコブソン。
【ストーリー】
サンディエゴの信用金庫で副支店長を務めるネイサン・ケイン(ジャック・クエイド)は、“先天性無痛無汗症(CIPA)”によって「痛みを感じない」体質だった。彼は同僚のシェリー(アンバー・ミッドサンダー)に好意を抱いているが、その特異な体質と奥手な性格から声を掛けられず、ネットのゲーム仲間のロスコー(ジェイコブ・バタロン)だけが友達という孤独な独身男性だった。
12月23日。シェリーもまたネイサンが気になる様子であり、彼をランチに誘う。ネイサンは最初こそ躊躇して断ってしまうが、意を決してランチを共にする。シェリーはネイサンの特異体質を「スーパーヒーローみたい」と好意的に受け止め、更に彼をバーに誘う。
バーを訪れたネイサン達の前に、偶然にも学生時代に特異体質のネイサンを面白がって暴力を振るっていたいじめっ子が声を掛けてくる。ネイサンは、その特異な体質から“ノボカイン”と呼ばれていたのだ。シェリーはネイサンといじめっ子に酒を振る舞うが、その中身は激辛ソース。ネイサンは痛みを感じないので平静なのに対し、いじめっ子は顔を真っ赤にして悶絶する。
すっかり意気投合した2人はネイサンの自宅へ行き、愛し合う。
12月24日、クリスマス・イヴ。昨日の出来事ですっかり有頂天になったネイサンは、昨日までの憂鬱な出勤時間や仕事も何のその。
しかし、突如銀行にサンダ姿の3人の銀行強盗が訪れ、金庫の金を寄越せと銃で脅してくる。支店長は要求を拒み、リーダー格のサイモン(レイ・ニコルソン)に殺害されてしまう。ネイサンは、シェリーを助ける為に金庫を開ける。ところが、金を強奪した強盗団は、人質としてシェリーを連れ去ってしまう。駆け付けた警察官達を殺害し、強盗団は逃走。ネイサンはシェリーを救出する為、パトカーを盗んで追跡する。
強盗団は追跡してくるネイサンに気付き、二手に分かれる。シェリーが乗せられた車両を追いたいネイサンだが、追いついた先に居た車にシェリーの姿はなく、強盗団メンバーで退役軍人のベン(エヴァン・ヘンスト)とレストランの厨房にて対決することになる。痛みを感じないネイサンは、フライヤーに落ちた銃を拾い上げ、ベンの顎から頭部を撃ち抜いて射殺する。大火傷を負ったネイサンだが、それも構わずにベンの腕にあったタトゥーから犯人達の正体を探ろうと、ロスコーに調査を依頼する。
ネイサンが去った後の厨房には、警察官のミンシー・ラングストン(ベティ・ガブリエル)と相棒のコルトレイン・ダフィーが駆け付け、パトカーを盗んだ事から、ネイサンが犯人グループのメンバーではないかと疑う。
やがて、ネイサンは警察に追われながら、屈強な肉体の彫り師・ゼノやベンの兄であるアンドレ(コンラッド・ケンプ)、サイモン(レイ・ニコルソン)らと対決していく事になる。
【感想】
「痛みを感じない」という疾患以外はごく普通の男が、屈強な男達に次々と戦いを挑んでいく姿が面白い。最初は奥手だったネイサンだが、物語が進むに連れて愛と正義感に突き動かされ、困難な状況下でも前へ前へと進んで行くので、キャラクターにストレスを感じる事なく鑑賞出来るのもポイント。
また、30歳の冴えない独身男性(とはいえ、その年齢で銀行の副支店長なら十分成功してはいるが)が、恋を皮切りに愛の力で突っ走るというのは、共感しやすく応援したくなる。
「痛みを感じない」からこその、床に散らばったガラス片を拳に突き刺して戦ったり、相手の頭を両脚で抑えた際に刺さっていた矢で頭をブチ抜くといった捨て身の戦法が見ていて新鮮。ラストの骨折して露出した腕の骨で相手の顎から脳天を突き刺すのはやり過ぎ感あって若干引いたが。
ロスコー役でトム・ホランド版『スパイダーマン』シリーズでネッド役を務めていたジェイコブ・バタロンが、本作でも主人公の良き理解者・協力者として活躍しているのも面白かった。詰めの甘さから、ここぞと言う瞬間に輝けないのも、お喋りな性格から女性に「黙って!」と言われる姿も憎めない。
警察側もネイサンの行動に対して物語の流れを止めてしまうような妨害はせず、絶えずストーリーが前へと進んでいくので、そうした脚本の配慮からもスムーズに鑑賞出来る。
クライマックスのアクションには、もう少し派手さが欲しかったところではあるが、全体的にアクションの組み立て方も面白く、印象的なシーンも多かったので満足度は高い。
【総評】
冴えない男がヒーローとして覚醒していく姿をストレス無く見せ、コミカルなやり取りと爽やかなラストからも、気軽に観られるポップコーン・ムービーとして優れた1作。
興行収入は損得ラインを超えてはいないのだが、「もう1作くらいは、このキャラクター達を観たい」と思わせてくれたので、気長に続編も期待したい。