「忠実な再現度」グッドニュース 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
忠実な再現度
よど号ハイジャック事件に着想を得た韓国のブラックコメディ。
労作なのはわかるし演者らの熱量もすごい。が、大仰な戯画化は疲れるうえ笑えなかった。よど号ハイジャック事件とはどんな事件だったのかウィキで読んで知ったが、この映画はむしろよど号ハイジャック事件の忠実な再現映画と言っても過言ではない。それほど荒唐無稽な事件だった。それはマルクス厨をこじらせた若者たちがおこした信じられないような勘違いテロであり、それをわたしたちと同じ日本人がやったわけでこの映画の笑えなさはそこにも起因していると思う。恥ずかしい事件だった。
映画は筋が豊富でセリフが多くセリフに含みもあり、疲れるとはいえ理知的な映画だった。すなわち賢い人がつくっていることがわかる映画だった。
毎度思うことだが、韓国政府に賢さは感じないのに、韓国映画には賢さを感じる。
逆に日本政府には賢さを感じるが、日本映画には賢さを感じない。
(日本政府が賢いという表現は誤解されやすいと思うが、つまり左傾であったり親中であったりするにせよ、国民をかわしながら、のらりくらりと続ける、ずる賢さという意味における賢さである。)
この映画でも解るとおり韓国は映画の中では自虐もできるし、日本との客観的な立場も理解している。にもかかわらず、韓国と日本の国家間にはそんな客観性が全くなく、ただひたすら恨みをぶつけてくるだけだ。ということを、相変わらず思ったのだった。
ソルギョングが筆頭役者だがアンサンブルキャスト(主役を据えない群衆劇)になっていてギョングは聖俗から善悪からなんでもかみ砕いて流用するフィクサーみたいな調停役だった。目元が涼しいホンギョンがヒロイックな韓国空軍中尉で、そこへ山田孝之や佐野史郎や椎名桔平や笠松将ら日本の役者が結構絡んできて絵としては希少だった。
当時(1970年3月)漫画あしたのジョーが週刊少年マガジンに連載されていた。力石徹が死んだときにはじっさいに葬儀がおこなわるという社会現象にまでなった人気漫画で、よど号ハイジャック事件においても、犯人らが我々は明日のジョーである{原文まま}との声明を残したという。映画内にもあしたのジョーについて話すシーンがあった。
映画はそれを当て込んでいたわけではないが、あしたのジョーは「感化」というものを隠喩していた。というのも、漫画に夢中になった結果丈のライバル力石徹の死にたいして本当の葬儀がおこなわれた。一方赤軍はマルクスに夢中になった結果本当に北朝鮮へ亡命した。両者に違いはあるだろうか、ということである。
この映画がむしろよど号ハイジャック事件の忠実な再現映画だと言ったのは元来テロリストのやることとは滑稽さを免れないという事実に所以している。
映画は官僚主義の無気力さをも風刺しているがじっさいのところ官僚もテロも俯瞰したり時を経てしまえばコメディとしか言いようのない人たちなのだと思う。
imdb6.6、rotten tomatoes100%、オーディエンスメーターなし。(公開したてなので評点は未だ不確定)
