「負け試合」端くれ賭博人のバラード 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
負け試合
『西部戦線異状なし』『教皇選挙』で連続してアカデミー賞にノミネートされ、絶好調のエドワード・ベルガー監督の新作が、間髪入れずNetflixでお届け。
戦争、宗教ミステリーに続くのは、ギャンブル・サスペンス。ジャンルの広さやフットワークの軽さを見せ付ける。
こちらも現在キャリア安定のコリン・ファレルを主演に迎え、売れっ子才人がどんなギャンブル世界を描くか気になっていたのだが…。
過去の罪から逃げ、マカオのカジノホテルに流れ着いたギャンブラーの男。
一発大きく当て過去を精算しようとカジノに入り浸るが、負け続け、借金は増えるばかり。
ホテルから期日までの支払いと立ち退き勧告、過去の罪=騙した老夫人が雇った探偵に居所を突き止められ、文字通りの崖っぷち。
そんな時、運命の女神のような従業員の女性と出会い…。
コリン・ファレルの追い詰められた絶体絶命、焦燥、精神不安の演技…と言うより顔芸はもはや名人芸。ファレル自身も昔、酒とアルコールの依存症だった経験からの熱演。
ファレルの演技とネオン煌めくマカオの風景は素晴らしい。
が、話の方がどうにも盛り上がらない。
要は、愚かなギャンブラーの話。
会った人たちに(ましてや自分を追ってきた探偵にまで)金を借りようとする。
借りた金や騙した金をギャンブルにつぎ込む。
自分は“卿”と紳士ぶってるが、言動やホテルでの荒れた暮らしなど自堕落なクズ。
そこかしこにギャンブル依存の苦しみや再起も織り込むが、全く共感も感情移入も出来ない。
出会ったマカオの女性。見ていて「ん?」と思う点が所々あり、後から他のレビューやネタバレなどで調べてみたら、やっぱり。と言うか、まさかのスピリチュアル系…?
手に汗握るギャンブル・シーンが見せ場として盛り上がれば良かったものの、それに乏しい。
だってギャンブル映画ではなく、ギャンブラーの苦悩。
つい最近も書いた気がするが、『007/カジノ・ロワイヤル』のようなスリリングなギャンブル対決。
『ハスラー』のような非情なギャンブルの世界。
ベルガーの手堅い手腕でこういう作風を期待してたもんだから、何か見たかったものと違う…。
好調ベルガー、初の負け試合。
