「プロはどこにもいなかったけど、リーアム兄貴は変わらぬままだったよ」プロフェッショナル Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
プロはどこにもいなかったけど、リーアム兄貴は変わらぬままだったよ
2025.4.12 字幕 MOVIX京都
2024年、アイルランド、106分、G
北アイルランド紛争の余波を受けた田舎町を舞台にしたスリラー映画
監督はロバート・ロレンツ
脚本はマーク・マイケル・マクナリー&テリー・ローン
原題は『In the Land of Saints and Sinners』で、直訳すると「聖人と罪人の国で」という意味
物語の舞台は、1974年の北アイルランドのベルファスト
IRAのメンバーであるデラン(ケリー・コンドン)率いるチームは、スワンズ・バーの前にて車による爆弾テロを計画していた
だが、そこに家族連れが通りかかってしまったため、民間人に犠牲が出てしまった
デランはその場から立ち去り、弟カーティス(デズモンド・イーストウッド)の親戚がいる田舎町へと潜伏することになった
一方その頃、その町に住むフィンバー(リーアム・ニーソン)は友人で警察官のビンセント(キリアン・ハインズ)とともに射的の賭けをして遊んでいた
ある日のこと、バーの店員シニード(Sarah Greene)の娘モヤ(Michelle Gleeson)の首筋に虐待のような傷跡を見つけてしまう
シニードにそれとなく探りを入れても知らない様子で、その原因を掴もうと彼女の家を訪ねた
そこにはシニードの親戚という見慣れない男がいて、フィンバーは彼がその原因ではないかと感じていた
シニードは「いなくなれば良い」と呟き、フィンバーは彼がこの町にふさわしくない異物だと考えた
そこでフィンバーは、彼に近づき、郊外に連れ出して殺してしまう
彼は、かねてより暗殺に身を委ねていた人物で、そのターゲットの眠る土地に、彼を埋葬することになったのである
物語は、カーティスの不在を怪しんだデランがその行方を追う中で、町の秘密に迫る様子が描かれていく
この土地にはならず者が居着いていると聞いたデランは、フィンバーの雇い主でもあるロバート(コルム・ミーニー)の元へと向かった
ロバートはデランたちにただならぬものを感じるものの、やむなく口を封じられてしまう
そして、その知らせはロバートの妻ジョシー(Anne Brogan)から同業のケビン(ジャック・グリーソン)を経て、フィンバーの元へと伝わることになったのである
映画は、紛争が背景にあるものの、そこまでガッツリ絡んでいるというわけではなかった
フィンバー自身もそう言ったものに加担してきた歴史があるものの、そこまで色濃くは描かれておらず、単に田舎町の治安を維持するために動いているように思える
彼自身は引退を示唆し、余生を考えていたのだが、そこに降って湧いたのがデラン一味という異物だった
それを排除するために暗躍するものの、被害が拡大し、居場所を無くしてしまうのである
ラストでは、読みかけのドストエフスキーの『罪と罰』が登場するのだが、内容を知っている人はニヤリとしてしまうかもしれない
『罪と罰』では、「正当化される殺人」などがテーマとして盛り込まれているが、フィンバーはこの作品に登場するポリフィリィ刑事をビンセントになぞらえていた
フィンバー自身が「それ(正当化される殺人)」を行っていたという告白にも取れるのだが、それはビンセントが『罪と罰』を読むまで意味が通じないかもしれない
その読破期間が猶予にもなっていると思うので、ビンセントの性格を熟知したフィンバーならではの謎かけになっているのかな、と感じた
いずれにせよ、そこまで難しい話でもなく、北アイルランド紛争に詳しくなくてもOKだと思う
『罪と罰』に関しても、映画で語られる文脈から察することができるので、興味のある人はこれを機会に読んでみると良いのかもしれません
かなりハードルが高い作品だと思いますが、いろんな映画に引用される古典でもあるので、ざっくりと内容を覚えておいても良いのかな、と感じた