プレゼンス 存在のレビュー・感想・評価
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実は几帳面な霊
幽霊の条件
地縛霊は見た!!
幽霊から見た一人称の映画。
類似の構造として、
切なさが込み上げて来る「愛」についての秀作、
〔A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー(2017年)〕を想起した。
先の作品は、不慮の事故で亡くなった男が
白いシーツを被った幽霊の姿になり、
妻が今も住む家を訪れる物語り。
彼はその場所で地縛霊となり、
今のみならず、過去と未来をも見守り続ける。
とは言え何の行為もできずに、ただ佇んで居るだけ。
その眼にはどのようなものが映り、
何を感じているのだろうか。
ただ、世の中は、禍福は糾える縄なのを知る。
翻って本作の幽霊の性別は判らず
(ただ作中で、霊媒師が「HE」と表現していたような)。
何時からその家に居るのか、
どのような理由で成仏できないのかもわからない。
人には直接触れることはできないものの、
家の中に置かれている物には干渉できるよう。
なので、直近公開の邦画〔死に損なった男〕に
類似の設定ではある。
その幽霊の居る屋敷に
四人の家族が越して来る。
夫婦に兄と妹の構成も
妹の『クロエ(カリーナ・リャン)』は
母からも兄からも疎まれている。
元々の内省的な性格に加え
直近で友人二人が相次いで亡くなったことで
更にふさぎ込んでしまっているため。
そんな彼女に対して、幽霊は異常な関心を示す。
勿論、幽霊の姿は見えないししゃべれないので、
我々はカメラに仮託された視線から
それと推し量るばかり。
が、カメラワークが絶妙で、
幽霊の懸念が手に取るように感じられる。
普段はスムースに動いているのに、
時として移動が荒くなったり。
或いは、クローゼットの陰に隠れたり、
衣類で自らの視線を遮ったり。
耳も聞こえているのかはわからない。
ただ幽体の故か、家族が知らぬことも
見えているのだろう。
次第にその憂慮は現実になり、
せっぱつまった末に行動を起こすのだが・・・・。
実体の無いものに
感情移入をしてしまう不思議。
憤怒や焦燥を覚えている幽霊に対して、
観客は無責任にもじれったさを感じてしまう。
今、その場所で
なんとかできるのはお前だけなんだ~、と。
目に見えないモノに対して、
これほどのシンパシーを持ったことが嘗て有っただろうか。
なんとなれば幽霊よりも、
生者の方がよほど恐ろしいのだから。
家政婦は見た、VR。
カメラが遠い。
ソダーバーグなので観たが
正直言って面白く・・・はなかったかな。
ソダーバーグが何かしら伝えたい事があるのかどうかは?だけど、うっすらとだが試みたかった事は理解できたような気がする。
家族が引っ越す前から終始幽霊視点のカメラで撮っているため映像は家の中のみ。
ラストシーンで初めて外からの視点で家の外観がわかる、つまり自縛していた霊が解放されたことがわかると言うのは面白かったが、反面家の中のみなのため大きな動きがない分退屈ではあった。
幽霊の存在や動き?をはっきりとさせず曖昧にしているところがフィクションの中にもリアリティを感じさせ良かったと思う。
霊は妹の友人ナディアなのか、それ以前から家に取り憑いていた何ものかなのか。
兄の最後の行動も霊が目覚めさせただけなのか、身を挺して助けるところまでなのかなど。
さらに霊能力がある女性が本物なのかどうかもはっきりとさせていないところは嫌いではなかった。
子供達が見た目100%アジア系なので母親の連れ子だと思ったが、娘の名前のくだりから父親とも血が繋がっていることが(ここも何となく)わかるのだが、であればもう少しハーフっぽい子を使ったらいいのにと思った。
まあ中途半端よりもハッキリとアジア系であるほうが欧米人には伝わりやすいだろうし、白人の加害者とアジア系の被害者という対比をより鮮明にするには効果的なのかなとは思うが。
本作でも相変わらずルーシー・リューがいい女扱いされているのだが、欧米人との美的感覚のギャップにはいつも戸惑ってしまう。
幽霊の視点から物語を追うという斬新なワンアイデア勝負
【イントロダクション】
幽霊屋敷に引っ越してきた一家を襲う怪現象の数々を、全編「幽霊の視点」で描くホラー作品。監督は『オーシャンズ』シリーズのスティーヴン・ソダーバーグ。脚本は『ジュラシック・パーク』(1993)、『ミッション:インポッシブル』(1996)のデヴィッド・コープ。
【ストーリー】
アメリカ郊外にある一軒家。そこに内見に訪れたペイン一家は、すぐにこの家への転居を決意する。家族思いの心優しい父・クリス、仕事人間で息子を溺愛する母・レベッカ、水泳選手として将来有望な長男・タイラー、友人を事故で亡くしたばかりの長女・クロエの4人家族。転居してすぐ、クロエはそれの“存在”を感じ取る。クロエの様子を気にかけるクリスは、レベッカに相談する。しかし、レベッカは「あの子には時間が必要」として積極的に関わろうとはせず、息子のタイラーに愛情を注ぐ。
クロエは、友人2人をドラッグの過剰摂取によるオーバードーズ(OD)で亡くしたばかりで傷心中の身だった。ある日、タイラーが連れてきた学校の友人ライアンと秘密の恋に落ちたクロエは、彼と肉体関係を持つようになる。
しかし、ライアンはクロエの隙を突いて、飲み物に謎の薬物を投入する。間一髪の所で、“存在”によるポルターガイストにより、クロエは飲み物を口にせず済んだのだが…。
【感想】
全編「幽霊」視点でストーリーが展開されるという非常に実験的な作りで、製作費も僅か200万ドルという超低予算。その為、物語的な起伏や派手さこそ無いが、このワンアイデア勝負で87分を乗り切ってしまうのはある意味凄い。
そのアイデアを活かした独特なカメラワークは、最初こそ目が疲れるが、慣れてしまえば、共に家族の生活や秘密の一面を覗き見る共犯者のような感覚を覚える。クロエがライアンとセックスする際、幽霊が堪らずクローゼットの陰に隠れる演出に、幽霊に対する愛着が湧く。姿の見えない存在に愛着が湧くというのは、何とも不思議な感覚だった。
こういった超常現象を扱った作品の場合、唯一幽霊の存在を認識出来るクロエだけが周囲から信じてもらえず、次第に孤立していくのがセオリーだが、本作では割と早い段階で一家全員がポルターガイストに遭遇し、それの存在を認知する。また、クリスが常にクロエの事を気にかけ、味方でいてくれたのは見ていて安心した。
そんなクリスは、妻であるレベッカが抱える仕事上のトラブル(恐らくは違法性のある)も察知しており、彼女を手助けしようとするが、こちらはどういった事情があったのか、問題が解決したのかは定かではない。
意外だったのは、ライアンがクロエの友人の死に関わるシリアルキラーだった点だ。飲み物に混ぜていた薬物は、てっきり媚薬なのだと思ったが、実際には相手の意識を混濁させ、四肢の自由を奪うという危険極まりないものだった。ラップで相手の顔を覆い、窒息死する姿を見つめるという殺害方法も残忍。タイラーの話によれば、ライアンは学校内のカースト上位組らしいが、一体何が彼を凶行に走らせたのだろうか。家庭環境に何かしらの問題を抱えていそうではあるが、詳しい事は分からない。
クロエ役のカリーナ・リャンは中々の体当たり演技だったように思う。見えない“存在”に対する恐怖心と、それに亡くなった友人の可能性を感じる際の心の揺れ動きの表情や演技が良かった。
【考察】
幽霊の正体が何なのか、誰なのかという事は、最後まで明かされない。
多少の地震やポルターガイストこそ起こせるが、ライアンに襲われるクロエを救える程の直接的な干渉は出来ない様子で、タイラーの意識を覚醒させて救けに行かせる。結果として、2人とも亡くなってしまったわけだが、ラストでレベッカは鏡に映るタイラーの姿を見た。もしかすると、冒頭から家に居る“存在”は、1人分の存在ではないのではないだろうか。不動産屋の話によれば、あの家は長い歴史を持つ様子だった。だとすると、あの家に棲む“存在”は、複数の残留思念の集合体なのではないかと思った。
そして、霊能者が語ったように、幽霊は自身の存在理由を把握出来ていない。何故、“存在”するのか。それもまた、複数の残留思念が長い歴史の中で統合された故のものかもしれない。
とはいえ、本作は様々な点において「分からない」事の多い作品だ。「考えるな、感じろ」というか、幽霊視点というワンアイデアの面白さに全振りされた雰囲気作品の側面が強いので。
ラスト、視点が上昇し、家の全容からその先にある景色まで見えてくる。もしかすると、あの瞬間の視点は、亡くなったタイラーのものであり、家族に最後の別れを告げて去っていく瞬間だったのかも知れない。
主観映像の新感覚ホラーのお手並み拝見
「幽霊目線の新感覚ホラー」と銘打っていた本作。幽霊の主観映像で撮られたということで、”主人公”は幽霊と言えるものの、最後まで”主人公”の姿は見えず、また彼ないしは彼女が何者であるのか、どういった経緯でそこに”存在”しているのか一切分らないままエンディングを迎えました。また、”ホラー”と言う割には幽霊という切り口では全く怖くないお話であり、そういう意味では確かに”新感覚”のホラーではありました。
そんな本作を観に行ったのは、ルーシー・リューが出演していたから。映画では「キル・ビル」なんかが有名ですが、個人的にはアメリカCBSテレビの「エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY」で女性ながらワトソンを演じた役柄が大好きでした。そんな彼女目当てに観に行ったのですが、息子を溺愛する一方、娘のケアを余りしない母親役ということで、その点ちょっと残念でした。
肝心のストーリーですが、兄妹は親の言うことを聞かずに酒のみならずドラッグまでやってるし、特に兄は母親の溺愛をいいことに我が儘放題だし、その友人に至ってはクズ野郎だし、まあ現代アメリカの典型的なティーンエイジャーの姿なのかも知れないけど、ちょっと胸糞な内容でした。そんな状態に対して、最終的に”主人公”の幽霊が一定のケジメを付けたのは良かったものの、ちょっとあっさりし過ぎていて、そこまで楽しめなかったかなと感じたところでした。
そんな訳で、本作の評価は★3.2とします。
怪談の語り口は様々。
シャマランの『シックス・センス』やアメナーバルの『アザーズ』を連想する設定だが、いかにソダーバーグが料理するかが見どころ。それぞれ癖のある、作家性の強い映画監督たちだ。ともあれ、前2作はどちらの側であれ、この世のものでない存在を実体としていたが、本作は主観で描いてゆく。そのため、シーンの繋がりはフェイドアウト、インで『意思』を表現し、基本的にワンカット撮影の積み重ねとなっている。果たして、この演出実験は成功しているか、という点では疑問が残る。ただ、この(霊的なる)世界観を、新機軸で描くとこうなる必然を、ソダーバーグは提示したのだろう。まあ、ストーリーがステレオタイプで凡庸なため、テクニックを体験する、に逗まる作品だ。なお、このソレはクイアなんだろうなあ。
静かなる家族不和ホラー
決定権は君にある
【守護霊付きスマートホーム】
「存在」は家族、特に娘を観察し物を操作する能力を持ち、娘の感情状態や危険を検知し最適な環境調整をする。「見えない監視者」としての幽霊の役割は、カメラやセンサーの機能と酷似している。視点が家の中だけに限定されることからスマートホームの機能と言って差し支えない。
その機能が善意を持つ反面、生活に土足で侵入する二面性をホラーとして描き出している。独特のカメラワークを駆使し、「存在」の目線から家族を覗き見るが、これはスマートデバイスの「視線」を可視化する試みとも言える。若者の薬物汚染という由々しき事態を見守り、ここぞとばかりに干渉する。
幽霊映画のお決まりの文法を借りながら、存在への依存とそれに対する不安を扱っている。私たちは「見守られている安心感」と「監視されている違和感」の狭間で揺れ動く。その両義性こそまさに親しい者に対する態度そのものだ。
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