「アメリカの家族内に潜んでいる不安」プレゼンス 存在 くまぷうさんの映画レビュー(感想・評価)
アメリカの家族内に潜んでいる不安
ある家に引っ越してきた家族に起きる不可解な出来事を描いた新感覚のホラーということらしいが、本当にそうなのだろうか。この映画の中心人物は娘のクロエだと思う、クロエは友人が薬物が原因で亡くなって、それが原因で精神的に苦しんでいる。でもそれ以前にクロエは家族の中で孤立している。父親はクロエのことを徐々に理解し始めるが、クロエの心の問題を完全に理解することは出来ない。
というか家族だからと言ってお互いを理解できるとはかぎらない、クロエは母と兄に距離を感じているが、逆に言えば母と兄もクロエに距離を感じている。要するにこの家にいる幽霊と思われているものは、アメリカの嘘による悪影響の比喩なのかもしれない。2025年現在、トランプ大統領はアメリカを再び偉大にすると叫んで支持を得ている、でも現実のアメリカもこの映画の家族のように世界から孤立している。アメリカは家族を大切にする国と思われているが、家族内にも分断が起きていて、それぞれが孤独を抱えている。
そしてこの映画ではこの家族を蝕んでいるアメリカという国の問題を薬物の問題にすり替えていることがホラーだと描いている。クロエに忍び寄る悪い未来は、クロエの友人をあの世に送った薬物だと、でもそれはアメリカという国のプレッシャーに心を壊されたアメリカ人は薬物に救いを求めるしかないということで、でもアメリカ政府は薬物が悪いことにして問題を単純化している。アメリカの社会の問題を無視して、クロエのような若者の苦しみをすべて薬物のせいにして偉大なアメリカと叫んでいる。クロエの家族は何が自分たちを苦しめているのか混乱して幽霊のせいにしてしまう、この家族が感じている恐怖は、最後に幽霊でも薬物でもないことを映画ははっきり描いてくれる。恐怖の正体に気が付かないからホラーということなのだろうか。