「面白かった、けれども」ぶぶ漬けどうどす 島田庵さんの映画レビュー(感想・評価)
面白かった、けれども
「ぶぶ漬けどうどす」という言葉は、
建前と本音の乖離の例として人口に膾炙しているが、
江戸っ子が「べらんめえ」と言わないのと同じく、都市伝説のようなものではないかとワタクシは思っている。
つまりは「部外者は容易に入れないぞ」というメッセージの、
ひとつの現れにすぎない。
コミュニティのつながりと歴史が
長く強固であればあるほど部外者は入りにくいというのは、
日本中、いや世界中で、共通なんじゃなかろうか。
つまり、京都に限ったことじゃあるまい。
なのになぜ、京都がことさら取り上げられるのか。
三代続かなきゃ「江戸っ子」じゃねえ、なんて話もあるけど、
話題性から言ったら京都の比じゃない。
それはおそらく、
1200対400という圧倒的な「メトロポリス歴」の違いと、
その自覚によるんじゃなかろうか。
* * *
ただいずれにしても、
京都でも江戸でも東京でも、
メトロポリスには、全国から人が集まるのが理の当然。
だから京都の歴史も、1200年にわたるよそ者流入の歴史であったはず。
人口流入がなければ、大都市は維持できるはずがないんである。
今、京都は時代の変わり目にあり、
「老舗」は存続の危機にある。
そこに切り込んだのが、この映画。
なんだが。
「よそさん」が京都を壊す、と言いながら、
実は京都が「よそさん」で成り立っていた、
とのが事実なんじゃないかと、ワタクシは思うんだけれど、
その辺、監督は、今ひとつはっきりさせない。
スタンスが、定まっていない。
* * *
スタッフの顔ぶれを見ると、
脚本家が奈良出身、というのがいちばん近くて、監督は愛媛出身、
そして製作は、東京テアトル、メーテレ(愛知)という名前が連なり、
京都の「き」の字もない。
企画段階で、すでに敗北してるんじゃないか。
しかも、最も京都に近しい奈良出身の脚本家の脚本を、
あろうことか監督は現場で変えちゃったりしたという。
だから、どこまで「京都の真実」に迫れていたのか、というと、
非常に心許ないと言わざるを得ない。
* * *
映画の中で、
東京の全国ネットTV局が京都に取材に来た、という場面がある。
「ぶぶ漬けどうどす」という「都市伝説」を、
主人公へのインタビューの最中に
無理矢理言わせるのがこのTV局なのだが、
言ってみればこの映画全体が、そのTV局の域を出ていない、
と言えるんじゃないか。
* * *
東京から来た嫁が、相棒の描画担当と2人で
ネット漫画で京都を描こう、というのが話の軸だが、
微妙な機微がスルーされて雑な脚本になっちゃってるのは、
果たして脚本家のなせるわざか、
それとも監督が変えちゃったためなのか、
知る術はないけれど、
もうちょっときめ細やかな脚本だったなら、
かなり面白い作品になったんじゃないか、
というのが、非常に残念なところ。
室井滋さんを初めとした芸達者に加えて、
深川麻衣さんの演技もよかっただけに。
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