劇場公開日 2025年6月6日

「面白かった、けれども」ぶぶ漬けどうどす 島田庵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5面白かった、けれども

2025年6月9日
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鑑賞方法:映画館

「ぶぶ漬けどうどす」という言葉は、
建前と本音の乖離の例として人口に膾炙しているが、
江戸っ子が「べらんめえ」と言わないのと同じく、都市伝説のようなものではないかとワタクシは思っている。
つまりは「部外者は容易に入れないぞ」というメッセージの、
ひとつの現れにすぎない。

コミュニティのつながりと歴史が
長く強固であればあるほど部外者は入りにくいというのは、
日本中、いや世界中で、共通なんじゃなかろうか。
つまり、京都に限ったことじゃあるまい。

なのになぜ、京都がことさら取り上げられるのか。
三代続かなきゃ「江戸っ子」じゃねえ、なんて話もあるけど、
話題性から言ったら京都の比じゃない。

それはおそらく、
1200対400という圧倒的な「メトロポリス歴」の違いと、
その自覚によるんじゃなかろうか。

  *  *  *

ただいずれにしても、
京都でも江戸でも東京でも、
メトロポリスには、全国から人が集まるのが理の当然。

だから京都の歴史も、1200年にわたるよそ者流入の歴史であったはず。
人口流入がなければ、大都市は維持できるはずがないんである。

今、京都は時代の変わり目にあり、
「老舗」は存続の危機にある。
そこに切り込んだのが、この映画。

なんだが。

「よそさん」が京都を壊す、と言いながら、
実は京都が「よそさん」で成り立っていた、
とのが事実なんじゃないかと、ワタクシは思うんだけれど、

その辺、監督は、今ひとつはっきりさせない。
スタンスが、定まっていない。

  *  *  *

スタッフの顔ぶれを見ると、
脚本家が奈良出身、というのがいちばん近くて、監督は愛媛出身、
そして製作は、東京テアトル、メーテレ(愛知)という名前が連なり、
京都の「き」の字もない。
企画段階で、すでに敗北してるんじゃないか。

しかも、最も京都に近しい奈良出身の脚本家の脚本を、
あろうことか監督は現場で変えちゃったりしたという。

だから、どこまで「京都の真実」に迫れていたのか、というと、
非常に心許ないと言わざるを得ない。

  *  *  *

映画の中で、
東京の全国ネットTV局が京都に取材に来た、という場面がある。

「ぶぶ漬けどうどす」という「都市伝説」を、
主人公へのインタビューの最中に
無理矢理言わせるのがこのTV局なのだが、

言ってみればこの映画全体が、そのTV局の域を出ていない、
と言えるんじゃないか。

  *  *  *

東京から来た嫁が、相棒の描画担当と2人で
ネット漫画で京都を描こう、というのが話の軸だが、

微妙な機微がスルーされて雑な脚本になっちゃってるのは、
果たして脚本家のなせるわざか、
それとも監督が変えちゃったためなのか、
知る術はないけれど、

もうちょっときめ細やかな脚本だったなら、
かなり面白い作品になったんじゃないか、
というのが、非常に残念なところ。

室井滋さんを初めとした芸達者に加えて、
深川麻衣さんの演技もよかっただけに。

島田庵
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