「人による奇跡は起こすことができる」ファンファーレ!ふたつの音 かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
人による奇跡は起こすことができる
人の一生は運の巡りあわせやちょっとした偶然で、大きく左右されてしまう。
人なんかちっぽけでとるに足らないものだなと思う。
この世はままならず、どう抗おうとも変えることができないものばかり。
世の無常さへの無力感で、人として生きていることに何の意義があるんだろうかと思ってしまう。
白血病に罹った世界的指揮者のティボは、骨髄ドナーを探す過程で、実の弟がいることを知る。
兄・ティボは、幼児期に実母のネグレクトで養子に出され、音楽教育に理解ある義両親に引き取られて高名な指揮者になったが、弟・ジミーは、兄同様に音楽の才能がありながら環境に恵まれず、廃れた炭鉱町の学校の食堂で働き炭鉱のシロウト楽団で吹奏楽を演奏するのが唯一の楽しみな生活。気は良いのにキレやすく粗野で無教養、叔母(叔母の夫も)は愛情をもって育ててくれたようだが、実の母の虐待からの辛い環境で育った影が色濃く見える。貧しく、自分に自信がなく、人生をあきらめているよう。
ティボは、ドナーを引き受けてもらった「恩」を弟に返したいというより、弟の不遇を全力で埋め合わせするつもりだったように見える。全く同じ両親から生まれ、遜色ない音楽の才能があるのに不公平すぎると思ったよう。「ター」で見たようなどろどろの足の引っ張り合いの音楽業界(多分)、こんなにピュアで善良な人が生き残れるのが不思議だが、穏やかで辛抱強いふるまいが作用したかも。ティボは意識して諍いを起こさないよう、人の恨みを買わないよう慎重に行動しているように見える。大好きな音楽で生きていくため。その一心かも。
ジミーの育ての親である叔母がティボに申し訳なさそうに、「兄がいるのを知っていたらジミーと一緒に引き取ったのに」と言うが、ティボはちょっと困った顔をする。そうでなくて良かったと心から思ったから。叔母も(おそらく叔母の夫も)愛情深い良い人たちだが、音楽の教育と環境は授けてくれない。
ティボはその逆で、どうして弟も引き取ってくれなかったと養母を責める。引き取られていたらジミーも音楽の才能を伸ばせたかもしれないのに、というのだが、それは養母に対して酷すぎる。穏やかなティボがむきになって言い立てるのが意外だったが、彼女の前でなら素のティボが出せるのだろう。恨み言が止まらないティボに罪悪感丸出しで言い訳する養母、遠慮のいらない母と息子以外の何ものでもない。
ティボの骨髄移植の際に駆け付けた時も、ジミーはティボの実の弟なのに、ジミーに会うなり「うちの息子のために、ありがとう」と泣かんばかりで、この母がどれほど長男に愛を注いでいるかよくわかる。ジミーはその間ずっと浮かない顔。ティボは、ジミーにないものをたくさん持っているのだ。富と名声、母親の愛情も。ジミーは兄は好きだが、半端ない劣等感と羨望に悩まされていたと思う。兄に引換えこの俺は、とつい卑屈な感情に囚われてしまっだろう。
登場人物の、心の機微が言葉でなく表情や行動で描かれているところがとても良い。
そして、話は、おとぎ話で終わらない。とても現実的だ。
ティボが肩入れしようが、炭鉱町の工場閉鎖は免れないし、骨髄移植は失敗、もはやティボの命を救う手立ては皆無。
無慈悲に、粛々と迫ってくる現実を、ティボもジミーも受け入れるしかない。
新曲の完成披露コンサートは、ティボの最後の指揮になるだろう。
コンサートのアンコールで起きた(起こされた)前代未聞のハプニングで、この映画が伝えたいことが見えたよう。
どこからか聞こえてきたドラムスティックのリズム。特徴ある、ボレロの冒頭。
自信がなく、やろうとしなかったジミーが指揮を執る、炭鉱楽団の面々の歌声が聞こえてくる。
合唱なので、楽器を撤去されても大丈夫。肉体と言う楽器があればよし。
歌声に合わせ、オーケストラの楽器が加わり始める。最初はクラリネット、小節が進むごとに別の楽器が代わる代わる入ってきて、オーケストラと合唱、全員参加の胸熱くなるクライマックスへとなだれ込む。
世界が注目する舞台で、一流オーケストラの演奏とシロウト楽団のコーラスのコラボという、ありえない奇跡が、ティボのために実現された。
天による奇跡はきまぐれで齎されるのを待つしかないが、人による奇跡は起こすことができる。
人として生きているからこそ、できるのだ。
曲が「ボレロ」と言うのがちょっとずるい。
それまでがどんな風に流れてこようが、この曲だけで感動を呼んでしまう。
でも、この映画はそれでいいと思う。
障害を持つ人たちが普通に出演しているが全然不自然ではなかった。
ティボ役のバンジャマン・ラベルネも、ジミー役のピエール・ロッタンも、役に合っており好演。特にピエール・ロッタンが人好きする感じで、一目見た時からいい顔、と思いました。
コメントありがとうございます。確かにティボにとっては最高に幸せなひとときだったでしょうね。工場の閉鎖という事態になりましたが、ジミーと仲間たちがなんとか幸せな生活を送れればよいのですが
かばこさん、コメントありがとうございます。・_・
鑑賞直後は気分が沈みっぱなしだったのですが、時間
の経過とともに気持ちの濁りがおさまってきて、冷静
に振り返ることができるようになった気がします。
※鑑賞時のメンタル状態次第で、評価が良くも悪くも
なる作品かなぁ とも思いました。(…実感 ・△・;)
共感ありがとうございます。
別居中の娘に会いに行くとか、飲酒運転とか、海に入って行くとかノイズも多々ありましたが最後は初めて兄が貰った音楽のプレゼントみたいで感動しましたね。
エンドクレジット、ブツッと切れませんでしたか?







