「母の強さ」ナイトフラワー ありのさんの映画レビュー(感想・評価)
母の強さ
夏希と多摩恵が夫々に真っ直ぐな性格なので、観ているこちらとしても自然と彼女たちに共感することができた。二人がとった行動は決して褒められたものではない。しかし、極貧生活から抜け出すためにはそうせざるを得なかった。たとえ犯罪に手を染めてでも”生き抜いてやる”という生命力、連帯は、いわゆる現代のシスターフッド映画として大変面白く観ることが出来た。
特に、夏希と多摩恵が疑似家族のようになっていく前半部に引き込まれる。
劇中で初めて二人が出会うのはホテルのシーン。風俗嬢として派遣された多摩恵がベッドメイクをする夏希をドア越しに目撃する。その後、夜の街でドラッグの売人に殴られた夏希を、たまたま通りかかったジョギング中の多摩恵が介抱する…という流れで二人は邂逅する。
これが縁で二人は親密になり、やがて多摩恵は夏希の家族の一員のようになっていく。その過程もユーモラスに描かれていて微笑ましく観れた。例えば、餃子好きな長男のために、多摩恵が段ボールで作った餃子の被り物をして遊んでやる姿には笑ってしまった。ベタかもしれないが、こうした所が本作は活き活きと描かれていて上手い。
一方で、夏希と多摩恵はドラッグの売人として裏稼業に手を染めていくようになる。しかし、こちらに関してはサブキャラやエピソードが戯画的で、もう少しリアリティがあってもいいと思った。第一に違法行為をしている割に余り緊迫感が感じられないのはどうしたことか。実際には案外そんなものなのかもしれないが、ドラマ的にはもっとヒリつくような緊張感があっても良いと思った。
また、ヤクの元締めサトウの造形などは何だか作り物臭くて観てられない。元刑事の私立探偵、家出した娘を心配する母親等、周縁に集うサブキャラも軒並み、夏希と多摩恵に比べると薄っぺらく、なまじヘビーでシビアなドラマを扱っているだけにどうしても”軽さ”が気になってしまう。
ラストについても一言ある。観客に託したエンディングは決して悪くは無いが、個人的にはもっと突き放したエンディングでもいいような気がした。メロウすぎるという気がしなくもない。
ちなみに、このラストシーンはおそらくファーストショットに繋がるのだろう。実は、映画が始まってすぐにこのファーストショットに違和感を覚えたのだが、なるほど円環構造を狙ったのか…と思うと納得できる。
色々と不満を述べてしまったが、子育ての難しさ、母の強さ、脆さを含め、母性というテーマは力強く発せられており、感動的なドラマになっていることは間違いない。
個人的には、多摩恵がいじめにあった長女を抱きしめて「お前は強いな」というシーンで涙腺が緩んでしまった。格闘技という勝負の世界に生きる彼女が真の強さを知った瞬間のように思う。
キャストでは、夏希を演じた北川景子、多摩恵を演じた森田望智の熱演が印象に残った。
北川景子はクールビューティーというイメージを勝手に持っていたのだが、ここでは地面に這いつくばってでも子供たちを守ろうとする肝っ玉母さんを逞しく演じている。泣きの演技がしつこく感じられたものの、新境地を開いたといって良いだろう。
そして、森田望智の体当たりの演技も実に素晴らしかった。夜は風俗嬢、昼は総合格闘家という難役をハングリーに演じている。特にクライマックスのファイトシーンには見入ってしまった。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。
