「内田英治ワールド炸裂だけど「寸止め」されたと感じる件 観客がリアリティ•ラインを作り手と共有できずにツッコミどころ満載となってしまう件」ナイトフラワー Freddie3vさんの映画レビュー(感想・評価)
内田英治ワールド炸裂だけど「寸止め」されたと感じる件 観客がリアリティ•ラインを作り手と共有できずにツッコミどころ満載となってしまう件
空手や格闘技で使われる用語に「寸止め」というのがあります。突きや蹴りを繰り出した際に対戦相手の身体的ダメージを避けるために相手に当たる寸前で止めることをいうようです。この映画のラストシーンを見たときに、これは寸止めを食らったのかな、と感じました。
ネタバレ•マークも付けことだし、いきなりラストシーンの話をしますが、そこではこの映画の主人公 夏希(演: 北川景子)のもとに、彼女が街でヤクの売人をするときの用心棒役で家族同然になっている格闘家の多摩恵(演: 森田望智)や彼女の娘 小春、彼女の息子 小太郎が戻ってきて皆で笑い合っているという多幸感あふれるシーンで終わっています。一見ハッピーエンド風なのですが、タイトルにもなっている夜に咲く「ナイトフラワー」が彼女らの背後で昼にもかかわらず咲いており、これは夏希が見た幻ではないのか、あるいは4人とも既にこの世にはなく、死後の世界で笑ってるのではないかとも受け取れます。その前の経過では、特に多摩恵と小春は生命の危機に晒されていましたので、まあバッドエンドが妥当なところかなとも思われます。
一方、ナイトフラワーが昼に咲くというとんでもない奇跡が起きたということは、彼女らの身の上にも奇跡が起き、すんでのところで皆、助かったというハッピーエンドもありなのかな、とも考えられます。私は鑑賞時にはバッドエンド寄りでラストシーンに夏希の見た幻想があらわれたのかな、と思いました。観客に厳しい現実を突きつけず、ぼやかして着地させて観客に精神的ダメージを与えず、家路についてもらう…… 必殺の突きは私の目の前で寸止めされたのです。バッドエンドとするにしろ、ハッピーエンドとするにしろ、内田英治ワールドで繰り出された突きや蹴りは見事に寸止めされて、我々は彼の技の凄さだけを堪能し、打撃そのものの痛さを感じることはできませんでした。このあたりは内田監督の作戦勝ちだったと言えるかもしれません。結局、彼が描きたかったのは、北川景子が演じる母親の母性の異常な暴走と、田中麗奈が演じるもうひとりの母親、すなわち「親孝行したい頃には親はなし」の親子逆転バージョンの、母性を発揮できずにもやもやしているうちに娘が突然死んで行き場のなくなった母性を抱えた母親の狂気のあたりにあるわけで、それらを描き切ったと感じたら、もうバイバイ、後は野となれ山となれといった感じだったのでしょうか。
私は実は内田監督の作品は余り好みではないのですが、彼は本作で原案/脚本/監督と八面六臂の活躍をしていることからわかるように、自らの書くオリジナル脚本で勝負できる、作家性の高い、かなりの力量をもった映像作家だと言えると思います。でも、自分とは相性が悪いのかな、本作も今ひとつだったな、と思いながら、ふと、これと同じ内容の外国映画だったら、けっこう高く評価するのではないか、と考え始めてしまいました。舞台がソウルでも、香港でも、サイゴンでも、ロンドンでも、パリでも、ローマでもそこそこいい映画になりそうです。とりわけ、舞台をアメリカのLAあたりにして、北川景子が演じたシングル•マザーをメキシコあたりからきた不法移民の設定にして、森田望智が演じた格闘家を黒人女性、田中麗奈が演じたもうひとりの母親をビバリーヒルズあたりに住むブルジョワの白人女性あたりに設定すれば、かなりいい感じです。このことは内田英治のストーリーの原案がいいところを突いていることの証左になると思います。
でも、この内容を地続きである東京を舞台にして日本人の演者が日本語で演じると、作り手である内田英治と観客である私の間でリアリティ•ラインをうまく共有できなかった感があります。本作鑑賞中も「え、そんなアホな」と感じるツッコミどころがそこかしこに出てきました。まるごと捨てられた(それもなぜか家族の人数分ある)ギョーザ弁当を拾うかどうか迷っていると、すぐ横でヤクにからむトラブル発生、それをきっかけにシングル•マザーはヤクの売人になってゆくのだった…… あたりはまだマシなほうで、渋川清彦の演じた刑事くずれの私立探偵なんぞ、ツッコミどころ満載です。母親から娘についての調査を依頼されてるのに、持ってきた写真は娘がヤクを買ってるときの写真3枚だけ(たぶん)。娘の素行調査なら書類袋いっぱいのいろいろな写真を持ってくるでしょ、普通。あげくは、拳銃をタオル(!)にくるんで持ってきてカネを受け取り「変な気は起こさないでくださいよ」とかなんとか言ったりもします。とんだ茶番なのですが、外国映画でこういうのを見てもあまり気になりません(あくまでも私の場合は、ということですが)。私の場合、外国映画のほうが邦画よりリアリティ•ラインが低いようです。まあ日本映画でもこの設定なら、B級ジャンル映画のノワールものみたいにして人のひとりやふたり殺してゆけば、リアリティ•ラインもへったくれもなくなるのでいいエンタメになりそうですが、そうなると内田英治の作風とは合わなくなるのかな。
ということで、個人的にはあまり好きな作品ではなかったけど、内田英治監督の構想力の凄さをあらてめて認識した次第です。今の日本映画界ではけっこう貴重な人材ではないかと思いますので、どうも好きじゃないなあ、相性が悪いなあと言いつつ、次回作に期待したいと思います。
共感ありがとうございます!
この作品だけでなく、最近は寸止め作品が多いと思いませんか? これは私見なんですが、諸物価高騰から映画の製作費が削られてロケやセットが簡略化して、それでも抑えられないコストの穴埋めのために作品の結末を二極化して、観客に結末の感想を丸投げして話題作りを誘導する事により興行収入を上げるという禁じ手を使っているというものです。
このくらい極端に考えないと、結末があやふやな原作を選んだり、原作の結末と異なる脚本に改変したり、今の映画界の事情に納得できない感じがします。
確かにこれがオリジナル脚本であることは今の日本映画のジョーシキからすると驚くべきことなのかもしれませんね。あと私は本作の良いところは扱っているテーマのせいなのかもしれないけどテレビの匂いがあまりしないこと。曲がりなりにもこれは映画ではあると思うのです。製作に関テレ(言わずとしれたCX系列です)が入っていながらこれも驚くべきことなのかも。
共感ありがとうございます。
内田監督の触れ合えない恋人たちの話も、取って付けた様なハッピーエンドで、個人的にはそれはハードル高いぞと思ったものでした。直接的な描写は避けてるのかもしれませんね、最期を観せられても・・ですけど。
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