「2人の主演女優の演技は心に刺さるが、物語の流れに「作為」と「強引さ」を感じてしまう」ナイトフラワー tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
2人の主演女優の演技は心に刺さるが、物語の流れに「作為」と「強引さ」を感じてしまう
何よりも、2人の主演女優の演技が心に刺さる。
ほぼノーメイクで、顔をクシャクシャにしながら感情を露わにする北川景子もさることながら、粗野な格闘家を演じた森田望智の存在感も印象的で、本物の格闘家が対戦相手になっていると思われる終盤の試合のシーンでは、どちらが勝つのかが分からない展開に思わず力が入ってしまった。
生きて行くためには、犯罪に手を染めるしかなかった女性たちの物語だが、それでも彼女たちを応援し、幸せになって欲しいと願ってしまうのは、やはり、この2人の熱演があってこそだろう。
ただし、いくら多額の借金を抱えながら子供を育てなければならないとしても、自己破産や生活保護といった救済のための制度はあるし、ウイスキーを一気飲みさせるようなスナックや、上司がネチネチと絡んでくる地球儀の工場じゃなくても、職場環境の良い働き口はいくらでもあるのではないかと思ってしまう。
女性格闘家にしても、生活費を稼ぐ手段は風俗以外にもあるだろうし、何だか、無理やり彼女たちを困窮させているように思われて、「やむにやまれず違法薬物の売人にならざるを得なかった」という話の流れに、今一つ説得力が感じられなかった。
物語としては、売人としての仕事が軌道に乗って、娘に中古のバイオリンを買ってやったり、その娘がバイオリンのコンサートに出場したり、家族4人(親子3人と格闘家の疑似家族)で餃子を大食いしたりする辺りが、彼女たちの幸せの絶頂期で、いつまでもこの状態が続いて欲しいと願わずにはいられないのだが、悪事を働いて手に入れた幸せである以上、それが破綻することも容易に予想できて、逆に気が重くなってしまった。
実際、娘が同級生たちにいじめられたり、息子が保育園で園児を傷付けたり、違法薬物の常連客の女子大生が死亡したりすると、徐々に雲行きが怪しくなってきて、破滅に向かう足音が聞こえてくるかのような気分になってくる。
ここで、印象的なのは、女子大生の母親が、娘に薬物を売っている2人の写真を見て呟く「この人たちに家族はいるの?」という一言で、これは、「家族に不幸な思いをさせてまで、こんなことをやっているのか?」という疑問なのだろう。しかし、実際は、「家族がいるからこそ、それを守るために、こんなことをやらざるを得ない」のであって、そのことに思いが至らない裕福な母親と、貧困から抜け出そうともがき苦しむ主人公たちは、容易に理解し合えない間柄なのだということが実感できるのである。そして、こうした価値観のギャップを明確にするためにも、この女子大生の家族の状況は、もう少し詳しく描かれても良かったのではないかと思えてならない。
破滅の予兆が感じられてからは、坂道を転げ落ちるように、一気に終焉へと向かうのかと思っていると、娘が上級のバイオリン教室でうまくやっていけそうになったり、薬物を誤飲したかと思われた息子が無事だったり、冒頭で触れたような総合格闘技の試合があったりと、なかなか思ったような展開にはならず、少し「もたつき」を感じてしまった。
大学生の母親が、拳銃を手に入れるくだりも唐突で、彼女が自分自身で復讐しようとすることだけでなく、その矛先が、娘を直接死に追いやった訳ではない薬物の売人に向くことにも、違和感を覚えざるを得なかった。
ラストの描写については、賛否両論が巻き起こるのではないかと考えられるが、何だか、無理やりハッピーエンドに仕立てたような強引さが感じられて、個人的には賛成できなかった。
状況から判断すれば、親子3人は女子大生の母親に射殺され、格闘家は違法薬物の元締めに殺された(最後の3つの質問が気になる。)と考えるのが自然で、ラストシーンは、主人公が死ぬ間際(死んだ直後)に見た幻覚で、昼間に咲いたナイトフラワーが、そのことを暗示しているのだろう。
ただ、仮に、希望を感じさせるラストにしたかったのであれば、あのような不自然な描写にするのではなく、例えば、刑期を終えて出所した2人が、児童養護施設から子供たちを引き取って、未来に向けて4人で歩み出すといった状況を描いた方が、よほど後味の良いエンディングになったのではないかと思えるのである。
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