「貧困を物語として消費してはいけないのでは?」ナイトフラワー メロメロ猫キックさんの映画レビュー(感想・評価)
貧困を物語として消費してはいけないのでは?
日本アカデミー最優秀作品賞を受賞したミッドナイト・スワンの内田英治監督最新作。ミッドナイト・スワン同様、監督が原案、脚本を務める。
ミッドナイトスワンは評価も高く、興行成績も良かったようだが、致命的な問題点があるという感想を当時持った。それはトランスジェンダーには性転換手術が必要ということには一切の疑問を挟まず、それを所与のものとして物語を構築している点である。5年前の公開作品なので、まだそこまでLGBTQに対する意識が進んでいなかったという説明もありうるのかもしれないが、ナイトフラワーを観て同じことを繰り返しているという感想を持った。
ナイトフラワーは貧困に喘ぐ北川景子演じるシングルマザーが、偶然知り合った格闘家の森田望智と組んでドラッグの売人になるというのがメインストーリーだ。ここで目を引くのが、シングルマザー家庭の貧困ぶりだ。督促状が写されているので、借金取りに追われているという背景がありそうなものの、ガスは止められ食事はケチャップライス、小学生の娘は給食をお代わりすることで空腹を満たす。ここでは憲法で定める健康的で文化的な生活が送られていない。であるなら作品内で生活保護などの社会的支援が描かれるべきだ。その社会のシステムが機能していない結果の貧困であることを見せないと、シングルマザーの貧困はこの日本では所与のものであり、単にその貧困を物語の中で都合よく消費するだけになってしまうのではないか。
また、だからこそなのか、貧困が免罪符のような結末になっているのも気になる。ドラッグの売人というのは明らかな犯罪であり、それがどのような影響を社会に与えるのかということは、作中のある薬物中毒者の悲劇として明確に描かれている。にもかかわらず、主人公たちはどのような罰を受けたのか。記号化されて消費されるだけの貧困と同様に、彼女たちの犯罪の結末は単に観客の感情を煽りサスペンスを盛り上げるだけの機能しか果たしていないように思える。
色々批判的なことを書いてきたが、主演2人および長女を演じる子役の熱演は素晴らしい。特に格闘家を演じた森田望智は体を大きくして役に臨み、動きも格闘家そのものといっても過言ではない。特に試合シーンは素晴らしく、これだけでもお金を払ってみる価値あると思った。
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