「鑑賞後に気づいてしまった」ナイトフラワー luna33さんの映画レビュー(感想・評価)
鑑賞後に気づいてしまった
シングルマザーの夏希(北川景子)が格闘家の多摩恵(森田望智)と共に貧困の中でもがき続け、犯罪に手を染めながらも必死に生き抜いていく物語。前半からキツいシーンが多くて胸が苦しかった。そして終盤はドキドキな展開ながらも結局みな無事で抱き合って終わるという何ともほっこりするラストだ。最近はハードな作品が多めだったからたまにはこういうのも良いかな、と。ただ少しモヤモヤするというか、所々でいまいち上手く回収できてない部分もあるんだよなあ、などと思いを巡らせながら帰路につく。
ところで海(佐久間大介)は結局どうなったんだろう?リンチに遭った後、車で運ばれていく。車窓に流れる風景は明らかに山林だ。恐らく山に埋められるのだろう。なぜ彼だけが殺される?あまりに理不尽すぎないか?
多摩恵もまたリンチに遭う。元締めのサトウ(渋谷龍二)に「助かりたかったら3つ質問に答えろ」と言われるが、助かったという事は口を割ったという事か?だとしたらどうにも多摩恵らしくないよなあ。そして3つの質問とは具体的に何だったのか?気になるが分からない。
みゆき(田中麗奈)は確かに小春に銃を向けていた。やがて団地内に一発の発砲音が響く。部屋にいた夏希はその音に気づき、思わず小太郎へ「行ったらあかん」と叫ぶ。そこからの緊迫するクライマックス。でも小春が何事もなかったように帰宅した。という事はみゆきが自殺したのか?
だとしても小春はなぜ平然としているんだ?そこに多摩恵が唐突に現れる。小春とばったり会ったと言うが、どう考えてもそんなはずはない。小春は団地の前でみゆきと対峙していたのだから。さらに多摩恵の「会いたくなってさ」という不自然な言葉。夏希も旅行先をやけに「楽園」と言うのも気になる。そして皆で嬉しそうに抱き合いつつ、ナイトフラワーがなぜか昼に咲く。そんなラストシーンを思い返し、ぐるぐる考えながら僕は車を走らせる。
やがてゆっくりゆっくり点と点が線となり、僕はハッと気づいてしまったのだ…。実は彼らが誰ひとり助かってないことに。そうか、多摩恵と小春がばったり会ったのは「この世」ではなかったからだ。皆で笑いながら抱き合ったのも「そういう事」だったのだ。なんてこった。まんまとやられた。そこから涙がどっとこぼれ落ちる。
観る側の解釈に委ねる手法はよくあるし、僕はそれが割と好きだ。でも今回は冷静に考えれば明らかにバッドエンドだ。だから解釈に委ねると言うより、直接的に描くのはあまりに残酷で厳しすぎる。なので内田監督は色んなバランスを考慮してこのような描き方を選択したのではないかと思った。
本作は役者の演技が本当に素晴らしい。主演の北川景子は初めて観たが、貧困のシングルマザーを見事に演じ切ったと思う。拾ってきた餃子弁当を親子で食べるシーンはあまりにも切なかった。美味しそうに食べる子供を見て微笑み、一方で自分の惨めさに顔が歪む。あらゆる感情に襲われる夏希の表情の変化は本当に胸が締め付けられる思いだった。
さらに森田望智があまりにも素晴らしすぎる。女の匂いをただ消し去るのではなく、格闘家として生きる多摩恵があえて女を捨てようとしている覚悟さえもちゃんと感じられる「女の消し方」が見事だった。さらに格闘技の経験があるとしか思えないような動きの俊敏さ。彼女を初めて観たのはNetflixの「全裸監督」だったが、この子マジで天才かよ!と思ったのを憶えている。でも今回はそれをさらに上回ったと思う。さらに佐久間大介君も良かったし、渋谷龍二君も演技初挑戦ながら素晴らしかった。
貧困の辛さやシングルマザーの苦悩など全体的に非常に重たいしラストも切ないが、家族愛や人と人の絆もしっかり感じられる非常に良い作品だと思う。
私もラストはluna33さんと同様に思いました。
あの幸せな4人の光景は、あの世のものなんだろうと。
そもそも夏希は、生きて旅行から戻る気はなかったようです。
昼間に咲いているナイトフラワーが、ホラーばりに怖かったです。
こんばんは。
コメントありがとうございます。
私もluna33さんと同じ解釈でした。
売人がハッピーエンドな訳ないし(倫理的にもアウトだし)昨今の邦画では子を○ろすシーンはほぼ無いので、それも察せてしまいました。
ただ、解釈は人それぞれで良いし、色々な意見を聞くのは楽しいです。
監督も"丸投げ"ではなく、考える"余白"を残したんだと思いました。
(まぁ、ソコも評価が割れている所でもあるんですけどねw)
共感・コメントありがとうございます!
おっしゃる通り、鑑賞した人が十人十色でそれぞれの感想を持っているのが正常な反応で、これが全員同じ方向に統一されたら恐ろしくつまらない作品になりますね。
他の方のレビューの中には、結末を観客に丸投げするのは無責任だと低評価を付けてるものも見受けられますが、そこは各人が考える余白を上手く残してくれている監督と脚本の力量だと信じています。
共感とコメントありがとうございました。
おっしゃる通りです。事情はあれど、犯罪という事実を無視するわけにはいかないですよね。
「ママちゃんと見なアカン」のセリフも印象的でしたね。大人はともかく、子供のシーンはどうしても堪えきれなくて、涙が溢れてしまいました。
コメントありがとうございます。私も、ラストを直接的に描写するのは救いがなさすぎるので、監督はああいう表現にしたのかなと思いました。
レビューを書いた後ネットで色々考察を見ていたら、ラストで夏希が小太郎に言った「行ったらあかん」という言葉、作品冒頭スナックのトイレで寝ぼけた夏希が同じ台詞を言っていることから、実はラストでは夏希だけが生き残って、冒頭のトイレのシーンだけは時系列的にラストの後の場面では?という推理がありました。
これはこれで面白いと思いますし、あるいはたまたま日常の子育ての夢を見ていただけかもしれませんが、同じ台詞を重ねているのは意図的なものでしょう。これも、観客の想像の余地を作りたいという監督の意向なのかもしれません。
はじめまして。
素晴らしい解釈に感動しました……ラストのシーンで心にかかってたモヤが晴れた気がしました。素敵なレビューをありがとうございます。(返信はお気遣いなく、突然失礼しました。)
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