「生きるために道を外れた彼女たちの行く末」ナイトフラワー ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
生きるために道を外れた彼女たちの行く末
フラワーカンパニーズの「深夜高速」を映画冒頭、主人公の夏希がカラオケでがなりたてるように歌う。それだけで彼女の心情や今の状況が瞬時に見えた気がした。名曲の歌詞の力と、やさぐれた北川景子が印象的なオープニング。
その後森田望智演じる多摩恵に出会うまでの結構長い時間、夏希の置かれた金銭的に過酷な状況がじっくりと描かれる。観ているこちらもちょっときつい、となった頃合いで多摩恵との出会いがあり、薬の売人の仕事が始まる。
危険だが実入りのいい売人の仕事によって、夏希は娘の小春にバイオリンを買ってやり、レベルの高い教室に通わせ、家族で外食もできるようになった。バディを組んだ多摩恵とは次第に私生活でも支えあうようになり、親子ごと擬似家族のような関係になっていく。そこで彼女たちは確かに「生きててよかった」という実感を得たに違いない。
序盤で嫌というほど夏希の不幸を見せられたので、犯罪に手を染めることもいとわず子どもたちを守ろうとする彼女を批判的に見る気にはとてもなれなかった。一方で、このまま夏希たちに因果応報がないままハッピーエンドを迎えることは考えにくく、どういう結末にするのだろうとも思った。
犯罪をエンタメとして描く作品ならそういう展開もあり得るが、本作は(一部リアリティに欠ける設定などはあるものの)社会派に属する作品だ。ざっくりした言い方になるが、本作には「追い詰められた人間が、子どもを守ろうとする母親が、犯罪に手を染める以外救われる道のないような社会でいいのか」といったメッセージが込められていると感じた。作品において犯罪が「最悪の選択肢」として描写されていなければ、このメッセージは力を失ってしまう。
そう前置きした上で、あのラストについて。
上記の見方に基づいた個人的な解釈だが、私は「少なくとも多摩恵と小春は死んでいるし、もしかすると夏希と小太郎も死んでいるかも」と思った。
直前、ジムで多摩恵がサトウの手下に殴り倒され、サトウに3つの質問をされた(内田監督によると、作品の他のシーンや、サトウのシャツの柄に質問内容のヒントがあったそうだ。私は鈍いので全く気づかなかった)。質問内容はわからなかったが、仲間の夏希に関することであれば多摩恵は答えないだろう。答えなければ殺される。答えても殺されたかもしれない。生き延びたと仮定しても、ラストのように何事もなかったような顔で帰ってくるはずがない。
また、星崎みゆき(田中麗奈)が小春に拳銃を向け、夏希が銃声を聞いたということはみゆきは少なくとも発砲はしている(そもそもみゆきのようなタイプの人間が、銃を入手して子どもを殺めるという流れ自体不自然に感じはしたが、サトウと繋がっていた探偵の岩倉がそそのかしたのだろうか)。弾が当たらなかったとしても見知らぬ女にいきなり撃たれそうになった小春が、あのように平然と帰宅するのもおかしい。だから、現実ではないのだと思った。
ベランダでは、真昼なのに月下美人が咲いていた。これは、4人の幸せな姿が幻であることの暗示ではないだろうか。
多摩恵が消されるのであれば、夏希のもとにもいずれサトウの手が伸びて同じ運命をたどるであろうことは想像に難くない。ラストシーンは、彼らがあの世で再会した姿だと解釈することもできる。
森田望智はやはりすごかった。作り込まれた肉体と立ち居振る舞い。総合格闘技の試合のシーンは手に汗握る迫力だった。北川景子も、すっぴんで髪を振り乱して頑張っていた。普段のイメージとはある意味真逆の役柄だが、変なわざとらしさがなくてよかった。盗んだ餃子弁当を頬張る時のなんとも言えない、様々な感情が混じった表情に胸を打たれた。
「ミッドナイトスワン」でも思ったことだが、内田監督は俳優の表情が役柄の内面を語る瞬間を映し出すのが上手い。表情のうつろいをじっくり映し、迂闊に台詞を当てたりしないから、観る側が「今こういう気持ちなのかもしれない」と想像する余地が生まれる。その余地こそが、観客の心と作品の深い結びつきを育むのではないかと思う。
ニコさま
コメント連投失礼します😙
>>「追い詰められた人間が、子どもを守ろうとする母親が、犯罪に手を染める以外救われる道のないような社会でいいのか」といったメッセージが込められていると感じた。作品において犯罪が「最悪の選択肢」として描写されていなければ、このメッセージは力を失ってしまう。
私の『愚か者の身分』のレビューに、今秋の釜山国際映画祭の最優秀俳優賞の受賞スピーチを、出来るだけ忠実に載せてあります。
ニコさんのレビューにある「メッセージ」や「選択肢」に通じる話が出てくるので、もしご興味があれば読んでいただけるとうれしいです。
『ナイトフラワー』と『愚か者の身分』を比較するレビューも見かけますが…『愚か者の身分』は、親の愛情を知らずに育った子ども達が、歌舞伎町の闇から抜け出そうとする物語。『ナイトフラワー』は、シングルマザーの貧困の母親が、子どもへの愛情から闇に堕ちていく物語、です🥲
ニコさま
丁寧な返信コメント、ありがとうございます🫡
「チェーホフの銃」は、リドリー&トニー・スコット監督兄弟の政治・法廷ドラマ「グッド・ワイフ」の、NHK海外ドラマ解説で知りました。
村上春樹さんは「伏線の回収とは別の意味で、語り手のマナーというか読者、鑑賞者への礼儀作法」と紹介されているそうです。
アンリ・ルソーの「夢」は、NY出張の美術館で何度か観て、良くない方の意味で記憶に残る絵でした。
(ドヤ顔の知ったかぶりコメントを、失礼しました🫢)
舞台挨拶上映に行ったレビュアーさんから、教えていただきました。
「(監督の話では)ラストのヒントは冒頭の壁の絵にある。」
「3つの質問の内容は出演者も知らない。」
「(監督はアメリカンニューシネマ好きを公言していて)『真夜中のカウボーイ』のようなバティもの映画を作りたかった。」
他のレビュアーさんから、夢についてのコメントもいただきました。
「アンリ=ルソーの夢(「La Rêve」)ですが、フランス語のレーブは日本語や英語と同じく、就寝中に見るものと、将来に向かってこうあって欲しいと望む姿、の二つの意味があります。」
>>これは私の個人的解釈なので適切かどうかはわかりませんが、生涯フランスから出ることなく過ごしたルソーが、人生の最後に実際には見たことのない美しい楽園を描いた、という背景が、映画のラストシーンとどこか重なりました。
>>あのラストが彼女たちの死を暗示しているという前提ですが、辛い境遇から抜け出せなかった彼女たちが思い描いた「夢」が、あの4人で笑い合い幸せに生きていく姿だったのかなと。
私もこのニコさんの考察と、同じ考えです。
「夢」についての解釈は、「夏希が眠って見た夢(リアリティに欠ける映画)」+「夏希たちが願望で夢想した夢(ラストの楽園)」の二つあるのかな…と思っています🤔
ニコさま
共感ありがとうございます🙂
演劇の「チェーホフの銃」ってご存知ですか?「舞台の前半に登場した小道具は、後半で意味を持たなければいけない」
アンリ・ルソーの『夢』は実物を見たことがあって、「楽園」なのに好きな絵ではないし、スナックのトイレの壁には不似合いなので、ラストまでずっと気になってしまいました🤭
ニコさんの解釈にほぼ完全に同意です。
この作品は思い返せば実に細かい所まで丁寧に伏線が張り巡らされていると思いました。僕は素直で単純なせいか気づくのが遅く(笑)、サトウが着ているシャツの柄なども全く気づきませんでしたし、ラストもみな無事で良かったなどと思ったりしてましたが実は全然分かっていなかっただけだった。でもおそらくは監督もハッピーエンドに見えなくもない「描き方」を意識していたようにも感じましたね。
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