「母性愛に飢えた人々が蠢く都会の片隅で、彼女は咲き誇る花になれたのだろうか」ナイトフラワー Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
母性愛に飢えた人々が蠢く都会の片隅で、彼女は咲き誇る花になれたのだろうか
2025.11.28 イオンシネマ久御山
2025年の日本映画(124分、PG12)
生活に困窮するシングルマザーがドラッグの売人の道を進む様子を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本は内田英治
物語の舞台は、都内某所(蒲田周辺)
大阪から東京に出てきた夏希(北川景子)は、幼稚園児の息子・小太郎(加藤侑大)、小学生の娘・小春(渡瀬結美)を一人で育ててきた
夫は借金を抱えて逃げ、彼女たちも東京へと住処を移していく
ラブホのベッドメイク、地球儀の制作所、スナックのホステスなどを掛け持ちして生計を立てていたが、生活は困窮し、小太郎が欲しがる餃子はおろか、小春のバイオリン教室の月謝を出すのも一苦労だった
ある夜のこと、仕事帰りに路上で気分が悪くなった夏希はその場で蹲ってしまう
そんな彼女に不審な男が声を掛けてきた
男は間違いだと気づいて別の若者に声を掛ける
どうやら何かを路上で売っているようで、その取引が終わった途端に、男は何者かに襲われて金を奪われてしまった
夏希は心配になって男に近づくものの、何を思ったのか、男が所持していたドラッグを盗んで、その場から逃げ出してしまった
数日後、夏希はそれを売ろうと繁華街に繰り出し、ある若者に売ることができたものの、ヤバい筋の男に見つかって殴られてしまう
路上で苦しんでいる夏希だったが、通りすがりの女性・多摩恵(森田望智)に介抱されることになった
多摩恵は格闘技の選手として成り上がろうとしている女性で、資金繰りに悩む弱小ジムのためにデリヘル嬢をしていた
彼女の幼馴染の池田(佐久間大介)はデリヘルの送迎をしながらも、多摩恵がその仕事をしていることに憤りを感じていた
映画は、いよいよ追い詰められてきた夏希が正式にドラッグの売人になろうと決意する様子が描かれ、そんな彼女のボディガードを多摩恵が担うことになった
資金繰りが良くなり、小太郎の食べたい餃子や、小春のために中古のバイオリンを買えるようになってくる
だが、発達障害を持っていると思われる小太郎は度々幼稚園で問題を起こしていて、とうとう児童に後遺症が残る怪我を負わせてしまう
慰謝料の話も出てくる中、夏希は今まで以上にドラッグを売って稼ぐことを決意するのである
物語は、とにかく夏希を追い詰めるための設定がたくさんあって、行政の窓口もテンプレのように描かれ、悪態をつく市民まで登場する
その後は、繁華街の若者相手にドラッグを売り捌いていくものの、とある令嬢らしき女・桜(瀧七海)に売りつけてしまう
桜の母・みゆき(田中麗奈)は、家出がちな娘を心配し、元刑事の探偵・岩倉(渋川清彦)に素性調査をさせていた
だが、その矢先に桜は警察の職質を受け、それから逃げる最中に車に轢かれて死んでしまう
みゆきはその怒りを売人に向けることになり、岩倉から得た情報をもとにして、夏希たちに近づくことになったのである
映画は、ラストシーンをかなりぼやかしていて、色々と想像させて終わっている感じに作られていた
だが、想像させるという範疇を超えていて、疑問点が拭えないまま終わった感が凄かった
売人の元締め・サトウ(渋谷龍太)の多摩恵への3つの質問も謎のままだし、彼女が無事だった理由もわからない
また、岩倉から拳銃を買ったみゆきが何に向けて発砲したのかも不明のままだった
ここまでエンディングをぼやかしてしまうと、何が言いたかったのかも不透明に思えるのだが、一応は「子どもを守る母親にサトウは感化された」みたいな陳腐な想像に落ち着いてしまう
おそらくは、サトウは多摩恵に対して「あの母ちゃん(夏希のこと)をどう思うか?」というようなことを質問していて、その答えが彼の腑に落ちるものだったのだろう
今後、彼女らがどのようにして生きていくのかは描かれないものの、生存と引き換えにその道を突き進むことになると思うので、その状態で育つ子どもはかなりリスキーな人生を歩むことになるのだろうなあと思った
いずれにせよ、題材は面白いと思うし、緊張感があって観ることができるのだが、終わってしまうと結局何だったのか?という感想を持ってしまう映画だったように思う
子どものために母親が全てを投げ出すことを肯定しつつも、思いっきり犯罪に走っているのは微妙で、子どもたちが成長して、それを知ったら関係性は最悪なものになるだろう
多摩恵とは擬似的な家族になっているものの、彼女が抱える孤独がそれで癒されるとも思えないし、一人犠牲になったっぽい池田も可哀想に思う
結局のところ、サトウの何を夏希が刺激したのかは曖昧なままで、多摩恵をも生かしておく理由は必要だろう
おそらくは、この世界でどっぷりと浸かる他なく、いずれ破綻するまで裏社会に身を投げ打つのだろうが、その方向性で「母親は強い」を美談っぽく語るのはナンセンスに思う
リアルっぽさがほとんど感じられないものの、寓話めいたものも感じないので、単に東京は怖いなあで終わってしまうのはなんだかなあと感じた
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