「とことん善良で、とことんファンタジックに、そしてとことん可愛く!」ストロベリームーン 余命半年の恋 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
とことん善良で、とことんファンタジックに、そしてとことん可愛く!
こういう毒のない映画で素直に泣ける自分に、まだ純粋さが残っているんだと安心したりする…。
悪い人は一人も出てこない。妬みも嫉みもなく、裏切りもない。微笑ましい友情と温かい愛情に包まれているのだ。
芥川なおの「ストロベリームーン」は泣ける小説としてベストセラーらしい。
この原作小説は男の子が主人公として書かれているが、視点を女の子側に置き換え、登場人物を整理・単純化したうえでオリジナルの展開を加えている。
この泣ける脚色、もう〝余命もの〟は岡田惠和にお任せ決定!
幼い頃に発病して自宅で療養生活を送っている萌(當真あみ)は学校に通えず、友達を欲しがっていた。中学生の年齢になり、親の計らいで惣菜屋の娘で同い年の麗(池端杏慈→中条あやみ)と友達になると、二人は親友へと絆を深めていく。
1つ目の希望が叶った萌の次の望みは「恋がしたい」だった…。
萌が偶然見かけて見初めた男の子日向(齋藤潤→杉野遥亮)ともう一度出会いたくて高校に進学した萌は、入学式の日に日向と再会する。
齋藤潤は『カラオケ行こ!』(’23)の聡実くん…。彼こそ素直男子の代表のようで、ナイスなキャスティングだと思う。
麗が幼馴染の日向に気があることは察しがつくので、恋の鞘当てが起きるのかと思えば、そんな揉め事などはないし、当の麗は萌のことを真剣に応援する。そこにあるのは、萌と麗の固い友情だけなのだ。
日向にもいつもつるんでいる二人の友人がいる。
小気味いい演出が、麗と日向の友人たちによる側面支援を愉快に見せる。
そしていよいよ物語の終盤が迫ると、彼らの友情にさえ目頭が熱くなるのだ。
萌の母を演じた田中麗奈がいい。
不治の病である一人娘を明るく優しいく見守っていて内に悲しみと絶望を隠している母親をみごとに表現している。
父親(ユースケ・サンタマリア)の役回りが、原作とは少し違うタイプになっていて、映画版はとことん優しいファンタジーで行くのだという方向性の象徴ともいえる。
中学にも通えなかった萌が、なぜあんなに元気に高校に行けたのか、説明は全くない。
萌の病気についても全く説明がないから、この映画は〝難病もの〟ではないのだ。治療場面もほとんどない。
田園風景が広がる地方の町を舞台に、萌の家や萌のファッションも思いっきりファンタジーに振り切って、當真あみをおとぎ話の主人公として儚くも可愛く映し出している。
監督の酒井麻衣はよく知らなかったが、『はらはらなのか』(’17)の監督だった。30代の若き女流監督。
向日葵の使い方が映画的なダイナミックさで、感動を極める。
短い人生を健気に生きた美しい少女を、単に薄幸な美少女の物語で終わらせない後日譚も、ベタベタだが見事なのだ。
さあ、日々の生活で積もった憂さを一旦忘れて、綺麗な心でこのおとぎ話の世界に浸りましょう!
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