「暴走と急停止に巻き込まれた人々の人生も、いつかはかけがえのない財産に変わっていく」ストロベリームーン 余命半年の恋 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
暴走と急停止に巻き込まれた人々の人生も、いつかはかけがえのない財産に変わっていく
2025.10.17 イオンシネマ久御山
2025年の日本映画(127分、G)
原作は芥川なおの小説『ストロベリームーン』
余命宣告された高校生が最初で最後の恋愛に向かう様子を描いたラブロマンス映画
監督は酒井麻衣
脚本は岡田惠和
物語の舞台は、日本のどこかの地方都市・常盤市
小学生の入学式の日に拡張型心筋症が発覚した萌(當真あみ、幼少期:西原紬)は、自宅療養を余儀なくされ、父・康介(ユースケ・サンタマリア)と母・美代子(田中麗奈)の献身によって、学校と同じようなカリキュラムを行うことができていた
中学に入った萌の願いは「親友を作ること」で、それを知った両親は近くの唐揚げ店の一人娘・麗(池端杏慈)に出前をお願いする形を作って、2人を部屋で会わせることにした
麗は萌の可愛い部屋を気に入り、萌も理想の人が来たと思って大はしゃぎをする
2人は次第に仲良くなっていき、2人は同じ高校に入ることになった
そんな折、萌の病状は次第に悪くなり、予後は絶望的なものへとなっていく
萌は「悲しい顔はしない」と心に決めて、残りの人生でやりたいことを少しずつやろうと心に決めていた
物語は、高校に入る直前に、路上で少女(小井圡菫玲)を助けている男の子・日向(斎藤潤、成人期:杉野遥亮)を見つけるところから動き出す
彼と同じクラスになれれば良いなと思いながら高校生活を迎えることになった萌は、入学式の日に運命の出会いを果たした
男の子のことを好きでたまらない萌は、その場の勢いでいきなり告白をしてしまい、彼を困らせてしまった
そんな気まずさの中、萌ははっきりさせたいと考えて、彼を講堂へと呼び出した
麗に見守ってもらう中、彼からの返事は意外なもので、萌はその理由では受け入れられないと言う
萌は「私のことを少しでも好きだと言うのなら」と言い、日向は「付き合う」と言う意味もわからないまま、交際をスタートさせることになったのである
映画はよくある余命ものかなと思うものの、これまでのよく似た作品とは違う視点が取り入れられていた
それは、死にゆく娘を持つ両親の視点であり、思った以上に尺を取っていた
娘の方が先に死を受け入れていて、親の方が追いついていないと言う構図になっていて、それを埋めることが果たして良いことなのかに悩んでいた
それでも、日に日に衰えていく体のことは本人が良く知っていて、巻き気味に色んなことを行なっていく
やりたいことをやり切る姿勢で生きていて、それに周囲が振り回されていくのだが、その暴走もとんでもないところで急ブレーキが掛かってしまう
それは、自分が死んだ後のことを考え始めてしまい、それによって「ここで別れた方が良いのでは」と思ってしまったからだった
やりたいことをするために相手を巻き込んでしまったことに気づくのだが、動き出してしまったものは簡単には止まらない
とは言うものの、実は動き出しは萌の思っていたところではなく、もっと過去の自分の行動によって生まれていた
人は知らず知らずにうちに誰かに影響を与えていて、それは自分にも影響を与えてしまうのだが、その連鎖の中で生きるためには「動き」が必要なのだろう
清々しいほどに自分本位で暴走して急停止してしまうのだが、人生はこれくらいのスピード感の方がうまく行くように思える
本作では、頭でわかっているつもりの両親が意外なところで現実感を感じてしまうのだが、それが霊園の抽選となっていたのは興味深いところだと思う
萌の希望を叶えたと思う一方で、墓を当ててしまうと言う無意味な強運を呪うだろう
父は「俺の手で引いてしまった」と言うように、どこかで「自分が娘を死に至らしめているのでは」と言う強迫観念がある
娘の健康に際して、親に責任があるかどうかは何とも言えない部分があるが、五体満足に生き切れなかったことに対して責任感を感じるのは当然の感情だと思う
そんな中で、萌は親を非難することもなく
限りない人生を笑顔で埋め尽くそうとしていて、そのマインドに親はついていけない
様々な感情が交錯する中で付き合っていくことになるのだが、それが最後まで続くものでもないのだろう
なので、親目線で映画を見ている人からすれば、あのシーンで一気に吹き出してしまう気持ちも理解できると思う
さらに映画では、泣き崩れる両親とは対象的な行動を取る人物として日向の存在が描かれていく
彼は最後の瞬間まで萌の気持ちに応えようとするし、自分の感情にも正直に生きていく
普段、テンプレのように使われてしまう全力疾走にこれだけの意味を持たせた作品も珍しく、間に合ってほしいと思わせるに十分な熱量を感じた
それは、そのシーンまできちんと描くべきものを描きつつ、全方位に対して、この命が尽きるまでに沸き起こる感情を見せることに成功しているからではないか、と感じた
いずれにせよ、余命わずかなのに元気な病人が描かれ、映画内では病名がはっきりと出てこないのだが、原作では「拡張型心筋症」と言うものがしっかりと明示されている
この病気は初期は「ちょっと息切れする」ぐらいに思えたものが、悪化とともに鬱血精神不全を起こし呼吸がままならなくなっていく病気でもある
さらに、何らかの要因で一気に悪化する傾向があるので、ちょっと前まで元気だったように見えると言うのはリアリティラインを大きくは逸れていないと思う
それを考えると、もっとはっきりと提示しても良かったと思うし、その病状の過程をもっと緻密に描いても良かったのかな、と感じた
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