「 この物語は、ネット炎上の恐怖だけでなく、人間の多面性や、都合よく事実を解釈してしまう心理を描いているのが特徴です。」俺ではない炎上 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
この物語は、ネット炎上の恐怖だけでなく、人間の多面性や、都合よく事実を解釈してしまう心理を描いているのが特徴です。
「六人の嘘つきな大学生」で知られる作家・浅倉秋成の同名小説を、阿部寛主演で映画化。
ある日突然、ネット上で身に覚えのない事件の犯人だと名指しされた主人公の姿を通し、SNS上で根拠の乏しい情報が「真実」となり大きな事件へと発展していくという、現代社会ならではの冤罪の恐怖を描く。浅倉秋成原作の同名小説(2023年発表)の映画化[2]。阿部寛、芦田愛菜らが出演。
ある日突然、ネット上で身に覚えのない事件の犯人だと名指しされた主人公の姿を通し、SNS上で根拠の乏しい情報が“真実”となり大きな事件へと発展していくという、現代社会ならではの冤罪の恐怖を描いた。
●ストーリー
大手ハウスメーカー勤務の山縣泰介(阿部寛)は、会社ではバリバリ仕事をし、部下にも家族からも信頼されている毎日を過ごしていました。ある日突然、彼のものと思われるSNSアカウントから女子大生の遺体画像が拡散され、殺人犯としてネット上で名指しされてしまいます。
死体となった女子大生の身元が判明し、マッチングアプリで‟たいすけ”と名乗る人物と頻繁に連絡を取っていたことも判明したことで、山縣への犯人疑惑はますます募ります。家族を愛し、誠実に働いてきた山縣にとって、実の覚えのない事態に無実を訴えるも、またたく間にネットで情報が拡散され、‟炎上状態”になってしまうのです。
匿名のユーチューバーに次々と泰介の個人情報を暴露され、日本中から追いかけかけ回されることになってしまうのです。
さらにビジネスホテルに潜伏していた山縣が車と荷物を取りにこっそりと自宅に戻った時、物置で別の女性の死体が入ったビニール袋を見つけます。すると驚いて退いた山縣をフラッシュが捉えます。自宅を見張っていた‟私人逮捕系ユーチューバー”が、死体の入ったビニール袋と山縣を写真に撮ったのです。
山縣は一目散に自分の車に乗って、自宅を後にします。車はすぐに発見されるので、車内にあったスポーツウェアに着替えて、車を捨てて逃げることにしました。
一方、警察の調べで、山縣の自宅で発見された死体は女性で、一人目の女性と同じマッチングアプリを利用していたことがわかりました。彼女たちは知り合った男性たちを脅してお金を巻き上げていたようでした。
彼女たちと一緒に悪どいことをしていた女性がもう1人いたのですが、彼女も今は行方不明となっていました。
その頃、最初にこうすけのアカウントでアップされた死体写真をSNSで拡散した大学生の住吉初羽馬(藤原大祐)は、アカウント名・サクラ(芦田愛菜)と名乗る女子大生に話しかけられます。
なんでも、たいすけの殺人事件で犠牲となった女子大生は自分の親友だから、山縣を一緒に探して欲しいと言うのです。最初は断った住吉ですが、結局車にサクラを乗せて山縣探しに付き合うこととなりました。
週に2日はランニングをしていた山縣は、早朝ランニングのふりをして逃亡を続けます。逃亡中の泰介は、「これまで自分は周りから尊敬される人生を歩んできた。だから、みんなが助けてくれる」と思い、親身に世話をし仲良くしていた元部下の家を目指すことにします。
元部下の家についたのですが、「帰ってください」と言われます。しかも「気づいてないようだが、お前はみなから嫌われている」とも……。
ショックを受ける泰介。そのまま部下の家から立ち去りますが、時間が経つにつれて自分の会社での所業を思い出し、自分が嫌われても仕方がないと思いました。
取引先企業の若手社員・青江(長尾謙杜)、泰介の妻・芙由子(夏川結衣)ら、さまざまな人物の思惑が絡み合い、事態はさらに混迷していきます。泰介は必死の逃亡劇を繰り広げながら、無実を証明し、自分を陥れた真犯人を見つけようと奔走するのでした。
●解説
ある日突然、ネット上で身に覚えのない事件の犯人だと名指しされた主人公・山縣泰介。見えない追跡者の手から逃れようとする山縣の姿を通し、SNS上で根拠の乏しい情報が“真実”となり大きな事件へと発展していく冤罪の恐怖を描かれます。
物語は、彼が家族や仕事を守るために真犯人を探す様子を描いていきますが、物語の終盤で衝撃の事実が明かされます。
本作で大きなデーマになっているのは、「歪んだ正義感」です。主人公の山縣も、自分では部下や家庭を大切している善良な人物だと思い込んでいましたが、自己中な男性でした。 信頼する部下や、家族から指摘されるまでは、自分を憎む奴はいないと思っていたのに、実は自分は周囲の人から憎まれていたと知り、奈落の底へ落ちた気分になるのです。
またネタバレに触れずに語れば、この事件の犯人も小学生の頃の記憶が、「歪んだ正義感」を育んで行ったと思われます。
そして最大の「歪んだ正義感」を感じさせられるのが、間違った情報に踊らされて、特定人物が犯人であるかのような投稿をするSNSでの不特定の投稿者や拡散する人たちです。この人たちは、自分もまた加害者になっていることに気が付きません。「俺は悪くない」と唱える現代の若者たちが、今でもSNS上において、‟歪んだ正義”を投稿し続けているという現実に恐怖を覚えます。
このような「歪んだ正義感」をテーマに、ネット上で身に覚えのない事件の犯人だと名指しされ、逃げ続ける山縣を通じて、SNS上で根拠の乏しい情報が“真実”となり大きな事件へと発展していくという、現代社会ならではのえん罪の恐怖を描いた作品でした。
SNSは上手に利用すればこんなに便利なツールはありませんが、誤った考えのもとで使っていると、えん罪事件の加害者になる場合もあるのです。
次なる悲劇や事件を招き来かねない社会におけるSNSの使い方に警鐘を鳴らしている本作は、一人一人のSNS利用者に向けて、「俺は悪くない」という「歪んだ正義感」の自覚を促している作品だと思います。
この物語は、ネット炎上の恐怖だけでなく、人間の多面性や、都合よく事実を解釈してしまう心理を描いているのが特徴です。観客は「俺ではない」と信じていた泰介が、実は「炎上するに足る理由」を持っていたことに気づかされ、衝撃を受けることになります。
●感想
本作でなくても、一度SNSで炎上されれば、人生は終わったも同然。しかしネットやパソコンに疎かった山縣は、当初は意味もわからず、逃げ回ります。
逃げまくって疲労骨折までする山縣を、文字通り体当たりで演じた阿部寛。恐怖にひきつる顔、皆から憎まれていると知って落ち込む様子、疲れ切って倒れ込むシーンまで、迫真の演技を披露してくれました。この世代を代表するかのような、どこにでもいそうなパワハラなオヤジっぷりなのです。
そして本作では重要なカギを握るキーマンが、芦田愛菜演じるサクラです。彼女は初羽馬とともに山縣を探し出して、山縣を陥れた犯人探しに乗り出す役を見事に演じていました。普段のテレビのバラエティなどで見せるかわいさを封印して、グッと知性の光るシャープな女性に大きくイメチェンしているところに注目です。ぱっと見では芦田愛菜が演じていることに気付きませんでした。
彼女の役柄には、時系列トリックが潜んでいます。過去と現在とをうまくかみ合わせて映像化された一連の出来事は、ラストにならないとこのトリックは融けないようになっていて、驚くべきどんでん返しが待っていることだけ明かしておきましょう。
映画『遠い山なみの光』同様におおっ!となりましたが、わかりにくいですね。
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