「心の機微//作劇についての持論」か「」く「」し「」ご「」と「 toshijpさんの映画レビュー(感想・評価)
心の機微//作劇についての持論
“少しだけ人の気持ちが見えてしまう”ことを漫画的に描くので
最初はファンタジー系ラブコメなのか?と思ったけれど意外に
ちゃんと心の機微を描いた作品だった。
”人の気持ちが見えてしまう”と言っても、テレパシーのように
頭の中に思い浮かべた内容まで分かるわけではない。
この人は顔は平静を装っていてもものすごく動揺しているとか、
顔は笑っているのに心からの笑顔ではないとか、この人は平然と
噓をついているとか、映画じゃなくても直感で分かってしまう
ことは誰しも経験があるだろう。
映画では誇張して描いているだけで人の感情を察知する能力が
人並外れて高い人なのだと解釈すればそれほどファンタジー色が
濃いとは感じない。
普通の高校生の普段通りの学生生活が描かれる。(自分にとっては
遥か昔のことだけど今どきの高校生活を疑似体験する気分で鑑賞)
普通の生活の中で感じる機微。普段の会話の中に込めた思いや、
逆に言葉にできない思い。映画の題は特殊能力を隠し持つという
以外に本心や本音をなかなか打ち明けられないという意味もある。
高校生が5人いて鍵括弧が5つ。「」の中は空だ。それぞれが言葉に
出せない思いがあるというのを象徴した印象的な題。そしてよく
見ると5つ目の鍵括弧は閉じられていない。もちろんこれには意味が
ある。どんな意味かは観てのお楽しみ。
主要な5人に絞って物語が展開していて良い。それぞれの視点から
人を評価したり、あるいは自分が人からどう思われているかを気に
したり。多感な高校生の心の中を巧く描いていると思った。ただ、
小説の映画化だからなのか本人の独白が若干多いと感じた。
でも許容範囲。
5人の高校生の話だが出演者の名前で一番目が奥平大兼(大塚京)
だから一応彼が主人公か。陰キャだな。 ”草食系男子”という言葉は
今でも使われているのかどうか知らないけれど、この手の男子を
主役にした映画が増えているように感じる。時代を反映しているの
だろうか。彼のような人物の方がより共感を得られやすいとか?
自分自身内気な性格で特に女子に対して奥手だったから彼の気持ちは
良く分かる。でももっと活発な男子を描いた話の方が観たいと思う。
演者はそれぞれ良かったと思う。役者の序列で2番手になった出口夏希
(ミッキーこと三木直子)はまだ主演映画というのは無いようだが、
いつ主役を張ってもおかしくない存在感と演技力があった。陰キャを
演じた奥平大兼よりも強く印象に残った。
全体としての印象は良かった中で一部カメラワークに不満があった。
大事な局面であえて手持ちカメラで微妙に画面を揺らす撮り方。
不安定な気持ちを描きたかったのかもしれないが、それは演者に任せて
演技だけで伝わるようにしてほしかった。他に「なぜそこだけ本人
目線?」と違和感を感じる場面があった。
終盤の盛り上がりはありがちな展開ではあったけれど、それまでの
もやもやが一応解消する内容で良かった。
普通の高校生活が題材だけに物語の起伏があまりなくちょっと冗長に
感じた。この中身ならもう少しテンポよく進めて上映時間を詰めた方が
印象が良くなった気がする。
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別の映画のレビューでも触れたが作劇に関する持論を書いておきたい。
・どのようなジャンルであれ、登場人物が大病を患ったり理不尽に
殺されたり交通事故で死んだりしない物語には好感が持てる
・大病・殺人・交通事故は簡単に物語を動かせる三種の神器
・最近の”感動させたい”系邦画は大概このいずれかに頼っている。
たくさん観た中の数本だけならまだしも多すぎて辟易する。
・今年1月~5月に観た映画だけでも(感動させたい系かどうかの
分類は独断)11本中 9本が該当。その内交通事故が発生するのは
6本である。(店を破壊する物損事故を含む)すごい確率だ。同じ
映画の中で殺人と事故の両方、事故と病死の両方、というのもある。
・まず交通事故当事者の運転手は登場しない。 作者にとっては
誰かを物語から強制退場させること(あるいは店を破壊すること)
だけが目的だから運転手の人格とか事故を起こした経緯とかは
どうでも良いことなのだ。
・殺人事件にしても"なぜ?"は有耶無耶にされる
・必然性なし 悪い偶然が重なったわけでもない ただ突然に
それは起こる
・人が喜怒哀楽を感じる時というのは何も人が死んだとか大きな
出来事が起こった場合に限らない。平凡な日常を送っていても
それは感じられるものだ。
・人間観察ができている人は何気ない出来事を通してでもそこに
ドラマチックな要素を見つけ作品に反映させることができるだろう
・人と人との関係がドラマを生むと考えたい。外的要因で物語が
強制的に動かされても感銘を受けにくい
・その点で今作は日常で感じる心の機微が巧みに描かれていて
好感が持てた次第だ
”感動させたい”系3種の神器の話で、レビューを書いた後よく思い出してみたら1本大病を扱った映画の内容を忘れていて、数字は 11本中 10本に増えました。この場を借りて訂正します。
トミーさんありがとうございます。青春時代真っ最中に観たら大いに共感できる内容だと推測します。半世紀前には僕にもこんな感性があったのでしょうがもう忘れました。 事故の件、はい、ここで退場!みたいな安直さが僕は受け入れられません。
共感ありがとうございます。
青春半世紀前の身にしてみれば、一時的なスタンド能力だよと言いたい所ですが、思い込みも青春のうちですからね。
車に轢かれた!が記号の様に使われますね、鮮明なのが片思い世界とか。
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