劇場公開日 2025年11月21日

「いまを生きているから」TOKYOタクシー 紅の猫さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 いまを生きているから

2025年11月30日
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鑑賞方法:映画館

「今生きてるから、この景色を見ることができるんです。死ななくて良かったんだ。すみれさんは。」

たまたま頼まれた長距離運転。タクシードライバーの宇佐美浩二(木村拓哉)がピックアップした85歳のマダム・高野すみれ(倍賞千恵子)は面倒くさそうな人だ。注文に応じて東京のあちこちを巡りながら葉山の老人ホームへ向かう2人。すみれの人生も辿りながら。

最初は寝ててくれないかなと思って面倒くさそうにしていた浩二も段々と話に引き込まれていき、自身の生活の話もしながらお互いに共感を深めていく。
すみれの東京での生活は決して良いことばかりでは無かった。悲しい出来事を思い出しながら横浜へやってきたときに浩二は冒頭の台詞をすみれへ告げる。
港町横浜はすみれの人生と今日という日を祝うように美しいイルミネーションを見せる。

この映画の旅は柴又帝釈天から始まる。言わずと知れた山田洋次監督の代表作「男はつらいよ」の舞台だ。倍賞千恵子はさくらとしてこの町で暮らした。山田洋次監督と倍賞千恵子の記憶のオーバーラップ。人生の総括もこの作品には含まれていると思わずにはいられない。
倍賞千恵子の華やかでちょっと意地が悪そうな中から染み出る優しさが素敵。
木村拓哉はお金を稼がないといけないのに長距離の仕事という稼げる案件に何故か張り切らない。どこか人生に保護線を引いている。そんなキムタクを「駄目よ、そんなんじゃ」と叱る倍賞千恵子。「ハウルの動く城」のソフィーとハウルを思い出した。
ぶっきらぼうだけどさりげなく優しい宇佐美浩二を木村拓哉が好演。今作の木村拓哉は本当に良い。自然体でさり気ない。木村拓哉の代表作だと言っていいと思う。

人と人との関係で嬉しいことはなんだろう。
優しくしてもらったり助けてもらったりといろいろあると思う。
でもこの映画のように自分の人生に共感してもらえた時ほど嬉しいことは無いだろう。
そして、自分の気持ちは伝えられるときにまっすぐに伝えないとその機会は永遠に失われてしまうかもしれない。

この映画の最後は悲しくてほんのりくだらない。でも、時にはそんなくだらなさがあったっていい。
すみれは言う。「昔の日本は良かった所だってあったのよ。楽しい音楽が流れてお店だってたくさんあったし。なによりみんな元気だった。」

ちゃんと生きていたら良いこともあるよね。

紅の猫
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