「素晴らしい映画体験」TOKYOタクシー メロメロ猫キックさんの映画レビュー(感想・評価)
素晴らしい映画体験
原作映画であるパリタクシーは残念ながら未見。
倍賞千恵子が演じる老婦人の役名はすみれ、彼女が木村拓哉演じる浩二のタクシーに乗り込むのが柴又帝釈天前。ここからも明らかなように、この映画が彼女がさくらを演じた男はつらいよを参照しているのは明らかだ。この作品は高野すみれという架空の女性の激動の生涯を描きながら、戦中から始まる日本の歴史を東京を巡りながら辿り、更には女優である倍賞千恵子の歴史をも重ね合わせるという非常に多層的な作品となっている。またこの作品の大きなテーマの一つが男性による女性へのDVであり、蒼井優が若き日のすみれを演じる回想シーンではつらい場面が続く。ただし現代パートでの演出は軽妙で無駄がなく、2人の会話シーンが中心でありながら、テンポが良いこともあり重い回想シートとのバランスが取れている。
本作にはハッとするような名シーンがいくつかあるが、特に若き日のすみれを演じる蒼井優が、タクシーの倍賞千恵子の隣の席に突然現れ倍賞の手を握る場面。何の説明もなくシーンの解釈は観客に委ねられる。若いすみれが激動の人生を生き抜いた現代のすみれを労うようにも見えるし、蒼井優という女優が大先輩である倍賞千恵子に親しみを込めて敬愛の情を示しているようにも見える。いずれにしても、本作屈指の名シーンであり、思わず嗚咽しそうになった。
最後に木村拓哉について。本作では柔らかい受けの演技に徹していて、キムタクの役者としての新たな側面を見せている。それが監督の狙いだったらしいが、こんなキムタクをこれからも見たいと思った。娘の入学金の金策に困り妻とちょっとした言い合いになり、朝食の納豆を一生懸命かき混ぜるような普通のお父さん。いい塩梅の味わいがあった。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。
