「和風リメイクにした点は理解するものの(ネタバレがあるので注意)」TOKYOタクシー yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
和風リメイクにした点は理解するものの(ネタバレがあるので注意)
今年196本目(合計1,737本目/今月(2025年11月度)1本目)。
この作品はもともと、コロナ事情のもとで放映された「パリタクシー」のリメイク版といえ、展開がやや異なる部分はありますが、リメイク作品にあたるので、展開に似た部分があります。
一方で、日本に環境をうつしたため、タクシー業界においてフランスと日本の法規制が異なる点の配慮がなかったり、この映画でテーマになる「帰国事業」についての扱いが雑であるなど(特に、帰国事業については現在も進行中の事案であり(後述)、あえて帰国事業という設定にする必要があったのかとは思える)、ややこう、配慮が足りないなというイメージです。
採点はかなりきつくしています。
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(減点2.0/道路運送法に対する配慮が足りない)
この点、(個人)タクシーの許認可業務に行政書士はかかわるので、ある程度の知識があると、ちょっとどうなのかなという気がします。
つまり、道路運送法は
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第二十八条 一般旅客自動車運送事業者の事業用自動車を利用する旅客は(途中略)又は走行中の自動車内でみだりに自動車の運転者に話しかけ、その他国土交通省令で定める行為をしてはならない。
第百四条 次の各号のいずれかに該当する者は、二十万円以下の罰金に処する。
三 第二十八条第一項(途中略)の規定に違反した者
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…とあるので、お客さんがみだりに話しかける行為は法律上アウトで、罰金刑もつきます。これは、タクシーやバスほかで運転手が気が散らかって交通事故を起こすことを未然に防止する意味において強行規定であるためです。
このことについて配慮が足りないのは、日本とフランスのタクシーに対する法律の事情を配慮していないのでは…と思います。
(減点0.5/遺言書に対する配慮が足りない)
たとえ司法書士事務所であっても、(封のある)遺言書を家裁の検認を経ずにあけると法に触れます。
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(民法)
(遺言書の検認)
第千四条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
(過料)
第千五条 前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。
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したがって、本来は家裁が描かれるべきところが抜けているのであって、この部分の配慮は欲しかったです(ただし、この規定に違反しても、内容を改ざんなどしない限り、単に処罰されるだけで、遺言の内容自体が無効になるのではない、というのが判例)。
(減点0.5/「帰国事業」に対する配慮が足りない)
この点は長くなるので、後述します。
(減点0.2/心裡留保の善意の第三者の保護要件)
心裡留保において、本人は(意思表示の真偽につき)善意の第三者に対抗できません。
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(減点なし/参考/いわゆる「帰国事業」について)
日本において、いわゆる「帰国事業」が大々的に行われたことは事実の通りですが、1990年頃まではソ連・中国の援助を受けていた北朝鮮のほうが国力が明らかに高く、韓国に帰るという方は稀なケースで、その中で行われた事業にあたります(現在では下記のように、北朝鮮における人権侵害が明確になったため、いわゆる漂流で来た方については、韓国に戻す扱いにしています)。
しかし、実際に楽園とうたわれた北朝鮮がそうではなかったことはご存じの通りで、この帰国事業により多くの人が「人質」に取られたため、その後のいわゆる拉致問題について対応が困難になり、また、この拉致問題については、この帰国事業がそれを引き起こした(フェリーの行き来について、当時はチェックがあいまいだったため、(暗号表を持った)スパイが多数やってきたとされます(このことを「土台人」といいます)。このように、帰国事業はいわゆる拉致問題を引き起こす「日本側のスパイを送り込んだ」ことも絡んで、現在進行中の事案でもあります。
また、この帰国事業があまりにもずさんであったため、被害者が国を訴えた裁判においても、民法の時効を理由に棄却した判例はあるものの、最近になって(令和5年)、「北朝鮮における人権侵害は日々日々行われているのだから、時効の起算点は毎日であり、終了という概念が存在しないため、時効を主張する国の見解が妥当しない」という判例(高裁判例。地裁に差し戻し)もあります(この考え方を「継続的不法行為」といいます)。
このように、帰国事業に関する色々なことは現在進行中であり(上記の地裁差戻も現在進行中の事案)、特に被害者が現在進行中に存在する中で、適当な描写のみで出すのは、それもそれでどうなのか、という気がします(他の事項ではダメだったのか、という気がする)。
松竹130年記念作品として、松竹ではないけれど、過去邦画、吉永小百合主演の「キューポラのある街」へのオマージュで帰国事業を入れたということ以上の意味はないのだろうなと思って、自分は観てました。
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