「予定調和の安心感。映画「東京タクシー」」TOKYOタクシー 椿六十郎さんの映画レビュー(感想・評価)
予定調和の安心感。映画「東京タクシー」
娘の学費をどう捻出しようかと悩む、個人タクシーの運転手浩二(木村拓哉)。そこに、(多分)高級老人ホームへの入居が決まった天涯孤独なマダムすみれ(倍賞千恵子)からの「ロング」の依頼が入る。・・・といっても、仲間の請負仕事だが・・・。すみれの辿るルートは柴又帝釈天から葉山(湘南)まで・・・、GOで検索すると3万5千円前後と出る。それも、思い出の街を巡ったり食事をしながらだ。かなりの金持ちか?無賃乗車前提の確信犯かのどちらかだ?すみれは自分の数奇な人生を浩二に語る。始めは、おざなりに対応していた浩二だが、話しが興味深かったのか?次第に真剣に耳を傾けるようになる。そして、二人の距離はドンドン縮まって行く。
・・・ここまで話しを聞けば、「これは運転手の浩二の苦境を助ける金持ちマダムの話か?」と相場が定まる。話しの途中マダムが貧しい環境に身を置いていたり、結婚後も不幸な境遇に見舞われ、挙げ句の果てに懲役まで・・・、という話があり、「これはマダムからの援助は難しいか?」と思わせる部分も有るが、出所後、ネールアーティストの草分け的な存在になる話しに至ってからは・・・もう結果は明らかであり、後はその運転手に対する援助が・・・法外なチップか?はてまた、財産分与か?と言う事に絞られる。結末は、ほぼ思った通りだ。
全くの予定調和!・・・それでは、こんな予定調和はつまらないか???と思えば、全くそうではない。寅さんのシリーズは勿論、幸せの黄色いハンカチ、数々の藤沢周平モノ等々・・・、山田監監督の作品は、結末で驚かせると言うよりは、観客が求める結末へ如何に感動を持って導くかに勝負をかける作り方がその真骨頂であろう。これで十分楽しめる。
さて、キャストである。主役は、倍賞千恵子演じるすみれで間違いは無い。問題は、ワキに回った木村拓哉である。初期の作品を除けば殆どが主役で有る。木村拓哉の為の映画に出続けている役者である。山田監督は、この存在感の強い役者をワキに使った。・・・私は、これは成功だったと思う。相手は倍賞千恵子である。私は、倍賞千恵子の出演作では「駅・ステーション」が大好きであるが、この作品では名優高倉健のワキに回って、素晴らしい演技を魅せたと思う。本作では、自身が主役で有る。ここでは、木村拓哉と云う存在感の強い役者の特長をしっかり引き出しながら、自身が主役で有るという主張も十分であった。流石は、ベテランの大女優である。それに対して、木村も自分の存在感を出しつつ、ウケの芝居がしっかり出来ていたと思う。木村の可能性がまた広がった。
予定調和が過ぎるし、かなりのご都合主義の展開ではあるが、その単純さを楽しめる鷹揚さが観る方に有れば、良い気分で劇場を後にできる・・・そんな秀作であった。
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