「「人生はまさに一期一会」」TOKYOタクシー かなさんの映画レビュー(感想・評価)
「人生はまさに一期一会」
個人タクシーの運転手、宇佐美浩二(木村拓哉)は夜勤明けで疲れ切っていました。娘の進学、車の車検と当面のお金に苦しむ状況でありました。朝方寝ていた浩二に同僚の運転手から電話が入り、東京柴又から高齢のマダム(倍賞千恵子)を老人ホームのある葉山まで乗せることになりました。
タクシーに乗ったマダムは東京の街をめぐりながら、浩二に話しかけます。戦争での東京大空襲、初恋、不遇な結婚、事件、そして意を決した行動。マダムの話の内容はまさに昭和史であり、昭和生まれの私にすれば、理解しやすく、ぐっとくるものがありました。
マダムはある提案をします。自分のことをすみれと運転手のことを浩二さんと呼び合いましょうと。そこから二人の心の距離感はぐっと近くなります。マダムは自分のことだけでなく、浩二の初恋や結婚の相手を聞き、奥さんのことを素直に愛していると言えない浩二にダメだしします。浩二もすみれさんの話を聞き、自分の妻に対する態度を深く考えさせる貴重なアドバイスと受け取ります。
二人のつながりは深くなります。横浜で一緒に食事し老人ホームに送り届ける浩二。すみれさんは乗客ではなく、浩二も運転手ではなく、一人の人間同士として深くつながりお互いを思いやります。二人の心の交流が手に取るように伝わってくる山田洋次監督の演出は見事でした。
すみれさんの若い時を蒼井優が好演。気が強く情熱的に演じているからこそ、不遇な結婚での事件もうなずけるような気がします。木村拓哉は、ほぼ受け身の抑えた演技が良かったです。話をよく聞く、じっくり聞く、相手の人生に入って聞く、その姿に倍賞千恵子が心を開いていく、まさに一期一会の素晴らしい出会いと別れがスクリーンに映し出されたのです。
このような静かな映画でありながら、見る者の心を揺さぶる映画を作れるのは、やはり「寅さん」シリーズや人間の優しさを表現してきた山田洋次監督の真骨頂でありましょう。人間は心で動く、この映画を観て改めて感じさせられました。
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